映画「スティルウォーター」、全国の劇場で公開中

無実を主張する娘のために奔走するビル（マット・デイモン）©2021 Focus Features,LCC

　米オクラホマ州スティルウォーターに住むビル・ベイカー（マット・デイモン）は、もともと石油掘削作業員だったが、油田の閉鎖に伴い失職。現在、日雇い労働で凌（しの）ぐ日々だ。そんな彼が飛行機で向かった先は、フランスのマルセイユ。実の娘アリソン（アビゲイル・ブレスリン）が殺人の罪で懲役９年の実刑判決を受け、すでに５年服役中だった。

　無実を訴えていたアリソンだったが、真犯人に関わる新情報を得たとしてそれをある弁護士に届けるようビルに託す。ビルは何とかその弁護士にたどり着くが、取り合ってもらえない。ならばと、手紙に名前のあった男を探すことにしたが、行く手には幾多の困難が待ち受けていた。

　ビルは、劇中の描写から、トランプ支持者を象徴。加えて過去に逮捕歴があり、妻を自殺で失うなどの影を引きずる。娘のアリソンは同性愛者で、刑に服したのは、恋人の殺人容疑。そんな複雑な家庭環境にあって、ビルは娘の無実と親子の関係を取り戻すべく奔走（ほんそう）するが、逆にトラブルを引き起こしていく。

　ビルが偶然出会い、成り行きから彼の通訳を引き受けたヴィルジニー（カミーユ・コッタン）と娘のマヤ（リル・シャウバウ）。彼女らはリベラリストだが、言葉や文化の壁、法制度の違いなどで翻弄（ほんろう）されるビルの助け手となり、親密な関係となっていく。

　このアイロニーこそポイントだろう。

　アリソンが「人生は冷酷」と言うように、本作に明るく希望的なメッセージを汲（く）み取ることは難しい。異国での一介の米国人の無力さに立ちすくむ。ただ、ラストでビルが故郷の風景を眺め「すべてが違って見える」と吐いたセリフは、悲哀の中の一筋の光明に見える。

　監督は２０１５年公開の「スポットライト　世紀のスクープ」で、アカデミー賞作品賞、監督賞など受賞したトム・マッカーシー。

　ＴＯＨＯシネマズ日比谷シャンテ他全国の劇場で公開中。

　（柏木広志）