偶然の連鎖を五つの視点から描くミステリー作品
映画「悪なき殺人」、黒沢監督の「羅生門」スタイルを応用
フランスの山中にある寒村で、ひとりの女性が失踪し殺された。殺された女性の名前はエヴリーヌ(ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ)。警察は、死体が発見された農場の農夫・ジョゼフ(ダミアン・ボナール)、そのジョゼフと不倫関係にあったアリス(ロール・カラミー)、さらに、ネット恋愛にはまっていたアリスの夫ミシェル(ドゥニ・メノーシェ)へとたどり着き、最終的にはフランスから5000㌔離れたアフリカのコートジボワールに住むネット詐欺のアルマン(ギギイ・ロジェ・ビビーゼ・ンドゥリン)に行き着く。
偶然の連鎖で翻弄(ほんろう)され狂ってしまった登場人物たちの運命の歯車。秘密を抱えた5人の男女が一つの殺人事件を介して絡まっていくミステリー作品だ。
ある映画評論家からは、寓話的作品と評される映画「悪なき殺人」。ネットを介したグローバル社会の中で繰り広げられた「色」と「欲」そして、ささやかな「野望」。「偶然」が交錯する人間関係が引き起こした事件を軸に、五つの視点から話が紡がれている。
ドミニク・モル監督は、日本の黒澤明監督の「羅生門」スタイルを取り入れたことを明かしている。「羅生門」スタイルとは、同じストーリーを三つの異なる解釈で描く手法で、モル監督に限らず、ほかの監督作品でも取り入れている手法でもある。
モル監督は、この手法を応用し、五つの視点から描いている。時間軸は、同時ではなく少しさかのぼるなどのやり方を取り入れている。
五つの視点が最後に一つにまとまる形になっているが、ラストのシーンは思わず「えっ」と声を上げてげてしまう演出になっている。
12月3日より、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。
(佐野富成)