フィリピンとロシアの記者にノーベル平和賞
レッサ氏とムラトフ氏に、政権と闘うメディアを率いる
ノルウェー・ノーベル賞委員会は8日、今年のノーベル平和賞をフィリピンの記者マリア・レッサ氏(58)とロシア紙の編集長ドミトリー・ムラトフ氏(59)に授与すると発表した。政権が強権主義を強める両国において、報道の自由を守る取り組みが評価された。
レッサ氏はジャーナリストと調査報道サイト「ラップラー」の最高経営責任者(CEO)を兼ねフィリピンのドゥテルテ政権と対峙(たいじ)し、ムラトフ氏は独立系紙「ノーバヤ・ガゼータ」の編集長としてロシアのプーチン政権と闘う姿勢で知られている。ノーベル賞委員会は「民主主義と永続的平和の前提条件である表現の自由の擁護」に2人が尽力していることを授賞理由に挙げた。
フィリピンでは麻薬犯罪の取り締まりで容疑者の超法規的殺害が続き、ドゥテルテ大統領はこれを事実上容認してきた。レッサ氏はラップラーを通して、その監視と批判的報道を展開した。ロシアではプーチン政権に批判的なジャーナリストの殺害が相次いだ。ノーバヤ・ガゼータは所属する複数の記者らに犠牲者を出しながらも、政権に妥協しない報道を堅持した。
ノーベル賞委員会は「民主主義と報道の自由が一段と困難な状況に直面する世界にあって(報道の自由という)理想のために立ち上がるすべてのジャーナリストを代表している」と2人を称賛した。
国際NGO「国境なき記者団」によると、当局による弾圧などを背景に、今年だけでも各国で報道関係者計28人が殺害され、460人が投獄された。
賞金は1000万スウェーデンクローナ(約1億2700万円)。授賞式は例年、12月10日にオスロで開かれるが、昨年は新型コロナウイルス対策のためオンラインで行われた。今年の式典形式についてはノーベル賞委員会が追って発表する。(ロンドン時事)