保護から3日、ベラルーシ選手が出国、亡命へ
「反政権」扱いされ帰国命令、ポーランドで競技継続へ
東京五輪陸上女子のベラルーシ代表から外され、強権的な本国による帰国命令を拒否したクリスツィナ・ツィマノウスカヤ選手(24)が4日、亡命先となるポーランドに向かうため成田空港から出国し、経由地ウィーンにたった。1日に選手村を離れ、羽田空港で警察などに保護を求めてから3日。安全な第三国に逃れ、新たな活動拠点とする意向だ。
成田空港では、記者団の問い掛けに応じなかったが、元気そうに手を振る姿を見せた。
ポーランドはベラルーシの隣国。ロシアを後ろ盾とするベラルーシ政府に批判的で、反政権派に支援の手を差し伸べている。今回の事件を受け、昨年8月の大統領選後から市民弾圧を続けるルカシェンコ政権に対し、国際社会の厳しい視線が再び向けられている。
ツィマノウスカヤ選手は、予定した陸上女子100、200メートルだけでなく、ドーピング検査をめぐって選手が欠けた1600メートルリレーにも出場するよう迫られた。コーチの不手際を訴え、インスタグラムで不満を外部に公表。「欧州最後の独裁者」と呼ばれるルカシェンコ大統領の長男が率いる本国オリンピック委員会から「反政権」と敵視された。
1日に帰国を命じられた本人は、ベラルーシのメディアのインタビューで「投獄されるかもしれない」と吐露。インターネット上に音声が流出したコーチとの会話では「私はただ走りたいだけ」と涙声で訴えていた。
保護から一夜明けた2日、ポーランド大使館を訪れ、亡命に向けた書類を提出。人道的理由から即日、ビザを発給された。面会したミレフスキ駐日大使によると、この日は「疲れ、おびえていた」が、翌3日には元気な様子で改めて謝意を表明したという。
ポーランド外務省高官は英BBC放送に対し「彼女はスポーツを続けられることをとても喜んでいる」と説明した。ツィマノウスカヤ選手の夫もウクライナに出国しており、ポーランドで合流して新生活を送るとみられる。
一方、ベラルーシ国営ベルタ通信は、1992年バルセロナ五輪のカヌー・スプリント男子金メダリストの下院議員の発言を引用する形で「彼女は勝利のためではなく、自らの計画実現のために東京に行った」と非難した。国威発揚の場である五輪で亡命者が出たことは打撃で、政権は他に同調する選手が現れる事態を恐れているもようだ。(時事)