自民元重鎮の改憲批判 護憲派取り込む政治力必要だ

《 記 者 の 視 点 》

 安倍晋三首相は4日召集された臨時国会の冒頭、所信表明演説で改憲論議の活性化を呼び掛けた。自民党も、二階俊博幹事長をはじめ全党一丸となり国会議論の進展を図る構えだ。

 そんな臨時国会の直前に党の元重鎮から直撃弾が飛んできた。古賀誠元幹事長の著書『憲法九条は世界遺産』。古賀氏は“ポスト安倍”を狙う岸田文雄政調会長の派閥・宏池会(岸田派)の名誉会長。従来ハト派が多い宏池会でも筋金入りの護憲派で、野中広務元幹事長(竹下派)亡き後は党の代表的な護憲派老政客だ。

 自民党は憲法改正が党是であるにもかかわらず、先の大戦(大東亜戦争)の悲惨な現実を体験した生粋の護憲派が脈々と存在し、大きな影響力を示してきた。1987年、イラン・イラク戦争の際に、米国から要請されたペルシャ湾への掃海艇派遣を辞表を懐に入れて反対し、当時の中曽根康弘首相を説き伏せた後藤田正晴官房長官が有名だ。

 大戦直前の1940年生まれの古賀氏はその系列の最後に属する。父親の出征と戦死により、戦中・戦後の混乱期に寝る間もないほど苦労して(姉と)2人の幼子を育て上げた母親の背中を見て育ち、二度と戦争を起こさないために、高校卒業後、丁稚(でっち)奉公や政治家の書生・秘書を経て39歳で国政に進出した叩(たた)き上げの政治家だ。

 その人生を支えてきたのが、「憲法九条は世界遺産」「九条一項、二項だけは一字一句変えない」との信念だ。だからこそ、安倍政権の「集団的自衛権の解釈変更」に対し、「一番腹立たしい…、憲法にも違反するのではないか」「日本の安全にとっても極めて危険なこと…。専守防衛を乗り越えて、戦争ができる方向に進んでしまった」と厳しく批判。9条改正についても、「自衛隊のことを憲法に書かせてもダメ」「少しでも憲法九条改正につながるようなことは針の穴程度でもやってはダメ」と一蹴する。

 現役の派閥の長でもあれば、“反乱の狼煙(のろし)”とでも騒がれそうだが、引退して7年になり、“安倍一強”の構図が固まった中ではその波紋も大きくない。著書で自ら吐露したように、戦前生まれの国会議員の減少に「危機感」を抱き、党内の護憲派に「モノを言う」よう促しているが、数人しか呼応しないのだとか。

 だが戦後の修羅場を生き抜いてきた老政客の「安倍改憲」への直撃弾だけに見過ごせない内容もある。

 その第一は、国民の盛り上がりが極めて少ないとの指摘だ。「なぜ今すぐやらなければいけないか、誰が見ても説得力に欠ける」ためと分析する。高まる安保危機の中でいまだに残る自衛隊違憲論争を終結させることの緊急性が国民に十分届いていないとすれば、自民党はさらなる努力が必要だ。

 もう一つは、「九条を大事だと考える人々は、立場の違いを超えて協力し合う必要があ」るとして、共産党とも「登り口は違っても行き先(平和)が同じであれば理解し合えるときが来る」と言っているが、これは明らかに共産党の目的と戦術を読み違えている。

 事の是非を明確にしつつも、護憲派すら取り込んできた自民党伝来の政治力を今こそ発揮すべきだ。

 政治部長 武田 滋樹