海底ケーブル/覇権懸けた海面下の戦い
《 記 者 の 視 点 》
中国が一帯一路をバックアップする海底ケーブル敷設に力を入れている。新たな戦場として、宇宙やサイバーだけでなく海底が急浮上してきた。海底ケーブルを介し、国家の存亡を左右するような軍事情報、経済・金融データなどが流れている。この海底ケーブルを支配した国が全世界の情報を握ることになる。水面下ならぬ海面下の覇権争いに目が離せない。
ほとんどの国の経済や国防で不可欠な存在となっている基礎インフラが海底ケーブルだ。1990年代、ほぼ同等だった衛星通信と海底ケーブルの通信量シェアは現在、約99%が海底ケーブル経由となっている。スマホの爆発的普及などで大容量のデータ需要が一気に急増したことで、容量に制限がある衛星通信が敬遠され、安定して大容量データを送れる海底ケーブルのニーズが加速度的に高まったためだ。
世界中の海底に沈められている海底ケーブルは380本とされる。敷設されている海底ケーブルの総延長は120万キロと地球30周分だ。存在を伏せている軍事用専用の海底ケーブルも存在するから、実態はもっと膨らむ。
近年、この海底ケーブル敷設というインフラ整備で異変が起きている。グーグルやフェイスブックといったコンテンツ業界の企業の投資が目立つのだ。両社の総延長距離は15万キロを超え、ここ数年の海底ケーブル総投資額の3割を占める。スマホの世界的普及という市場の変化に合わせた結果だ。
こうしたコンテンツ企業の資金と意欲を持ちダイナミックに動きだしているのが中国だ。具体的には中国聯合通信や中国移動通信、中国電信、それにファーウェイだ。
李克強首相は4年前、一帯一路の基本戦略として、中国の通信関連企業の海外進出を国家として後押しすることを打ち出した。中国が通信分野でも覇権に挑戦する意思を鮮明にしたのだ。とりわけ中国が近年、急速に力を入れているのが海底ケーブル敷設だ。
ファーウェイは昨年、カメルーンとブラジルを結ぶ6000キロの海底ケーブルを敷設した。「21世紀の大陸」とされるアフリカは、中国の重要な戦略大陸だ。ファーウェイの通信ネットワークはアフリカ中に張り巡らされている。アルジェリアやアンゴラでもネットワーク機器の大半を同社が受注している。
また、来春の完成を目指し、パキスタン―ケニア、ジブチ―フランス間の海底ケーブルも敷設中だ。なおファーウェイは地上の通信インフラでは高い技術を持っており、海底ケーブルになくてはならない中継器や陸揚げ局の伝送装置では、強みを発揮する。
そのファーウェイは6月3日、海底ケーブル事業を中国企業に売却した。中国とすれば米中冷戦下でファーウェイがたたかれる中、虎の子の海底ケーブルを切り離して、将来に備えた格好だ。
米中新冷戦の行く先は、目先の通商交渉だけではなく宇宙やサイバー、海底をも含めた新戦場にしっかり目を配らなくては大局を誤ることになる。
編集委員 池永 達夫