左傾化を推進した韓国映画 偽情報で国民感情をあおる

《 記 者 の 視 点 》

 映画の試写会によく足を運ぶ。映画で扱われる題材は多種多様だが、世界で何が起きているのかを知る窓口でもある。今回取り上げるのは韓国映画だ。韓国社会で何が起きているのか、ヒントにはなる。

 ドラマ展開の面白さで魅了されたのは、昨年日本で公開された映画「コンフィデンシャル/共助」(キム・ソンフン監督)だ。主人公は北朝鮮のエリート刑事と、韓国の庶民的な刑事。北朝鮮でドル紙幣を偽造していた組織の長が、偽造に必要な銅版を盗み出して逃亡、韓国に密入国。北朝鮮は偽造が発覚する前に彼を捕らえようと、南北長官級会談に乗じて刑事を送り、南北の刑事たちが協力して捜査に当たる…。

 北の刑事と南の刑事が対比的に描かれ、とりわけ北の刑事が観客を魅了する。韓国で公開された前年の上半期、781万人を動員してナンバーワンを記録。南北が融和に向かう国民的な感情を背景に、それを盛り立てた作品だ。

 北朝鮮の人間との交流を描くことで、彼らも同胞なのだという感覚を与えたが、半面、それが韓国人の精神的武装解除にもなった。同胞と思想は本質が違う。

 また同年4月に公開された映画「タクシー運転手」(チャン・フン監督)は1980年の光州事件、学生による反政府デモと戒厳軍が衝突した事件を扱った作品。ドイツのカメラマンがタクシー運転手を雇って現地に取材に行く物語だが、徹底して、当時の全斗煥(チョン・ドゥファン)政権を批判する映画となっていた。

 これらの作品に共通する左翼的な政治的な主張をたどっていくと、2004年に日本で公開された映画「シルミド」(カン・ウソク監督)に出会う。その衝撃は大きかった。朴正煕(パク・チョンヒ)大統領による反共政策の背後で行われたスキャンダルを白日の下にさらすことで、その政策全体を根本から批判する効果があったからだ。

 これは「実尾島(シルミド)事件」と呼ばれる、1971年夏に実際に起きた事件を描いた作品。舞台は仁川(インチョン)沖の小さな島。69年、死刑囚から兵士がスカウトされて金日成暗殺を目的とした秘密部隊が創設され、過酷な訓練を経て出撃に備える。が、計画は中止となり、部隊の存在が漏れることを恐れて兵士抹殺が命じられ、兵士らは反乱を起こす。

 韓国では当時1200万人が足を映画館に運んだという、韓国史上最大の動員数。社会的に問題となり、事実関係が調査されたが、兵士が死刑囚だというのは虚構で、兵士の抹殺命令が出されたというのも虚構。

 フィクションは表現として許容される範囲があるが、嘘(うそ)で国民情緒をある方向に引っ張っていこうとする政治的意図は、これは工作としか言いようがない。偽情報の効果は絶大で、韓国社会から反共思想は薄れていった。

 民主化で表現の自由は進んだが、左傾化と並行した。映画の国民への影響力は時間と共に効き目を発揮していったようだ。麗澤(れいたく)大学客員教授・西岡力氏の言う、北朝鮮の主体思想派が「今では大統領府秘書官の半分を占めるようになった」(小紙6月19日付「日韓打開 私はこう考える」)という事実と照合している。

 文化部 増子 耕一