脆弱性もつ安保条約 信頼作りに弛まぬ努力を
《 記 者 の 視 点 》
トランプ米大統領が20カ国・地域首脳会議(G20サミット)参加のため米国をたつ前に、日米安全保障条約の「片務性」に対して不満を漏らした。
「日本が攻撃されれば、米国は第3次世界大戦を戦う。…でも、われわれが攻撃されても、日本はわれわれを助ける必要はない。彼らにできるのは攻撃をソニーのテレビで見ることだけだ」
これに先駆け、米ブルームバーグ通信は、大統領が私的会話で条約が「一方的」だとして破棄に言及したと報じた。トランプ氏は大統領候補の時にも同様の発言をしており、条約「破棄」まで視野に入れていることは考えにくいが、条約の「片務性」に不満を抱いていることは間違いない。
これに対し、菅義偉官房長官は27日、「日米両国の義務は同一ではなく、全体としてみれば日米双方の義務のバランスは取られている」と対応した。「日米安保条約の第5条では、わが国への武力攻撃については日米で共同対処すること、第6条において極東の平和と安全のために米軍に対してわが国の施設や区域の使用を認めることとなっている。片務的ということは当たらない」というのだ。これは「日米政府間では安保条約の見直しの話は一切ない」ことの背景説明にはなるが、軍事を伴う同盟は相互防衛の形になるのが普通だが、日米安保はそうでないという、トランプ氏の批判への反論にはならない。
トランプ氏が訪日前に、安保条約の片務性批判を公然化させたのは、日中友好を演出する日本への牽制や、山場を迎えた日米通商交渉を有利に進めようとの意図も否定できないだろう。しかし、だからといって、トランプ氏の批判が抱える問題の深刻さを無視することはできない。米国が提供する人の命懸けの貢献に対し、日本は何を差し出すのかという、同盟の意義そのものに関わる問題だ。また、現在の安保条約は、日米のどちらか一方が「条約を終了させる意思を通告」しさえすれば、1年後に自動的に終了する(第10条)。そういう面では、極めて脆弱(ぜいじゃく)な条約だ。
中国や北朝鮮によって安保環境が緊迫し、より重要性が増す日米安保を堅持していくためには、より自立した防衛力を整備しつつ、国際社会での責務を果たす弛まぬ努力が必要だ。それを地道に進めてきたのが安倍晋三首相だ。集団的自衛権の限定的な行使容認を閣議決定し、2015年にはそれに基づく安全保障法制を成立させた。国防条項を持たない憲法の改正にも全力を挙げている。
一方、野党の対応まことに心もとない。立憲民主党の枝野幸男代表はトランプ発言を受けて、「日米安保体制は大変重要であり、これからも堅持し、健全に発展させる」と語った。しかし同党は参院選の1人区で、綱領に「安保条約の廃棄」を明記する共産党を含む候補一本化を実現。参院選の公約も安倍政権が進めた安保法制の「廃棄」だけでなく、民主党政権が紆余(うよ)曲折の末にたどり着いた米軍普天間飛行場の辺野古移転問題への対応を反故(ほご)にして、普天間返還の再交渉を訴えている。
政治部長 武田 滋樹