ワクチン開発には国家安全保障の観点が必要だ
《 記 者 の 視 点 》
新型コロナウイルス感染症の第4波により、東京、大阪など9都府県に緊急事態宣言が拡大され、沖縄県も加わることが決まった。変異ウイルスの拡大により、従来の対応ではなかなか抑え込めない状況となり、規制の強化と解除が繰り返される中で、国民に厭戦(えんせん)気分が漂ってきている。
完全な鎖国や特定地域のロックダウンが不可能である以上、「集団免疫」ができるまでは、かつての日常に戻ることはできない。人口の8割、9割が感染して膨大な被害を出す前に「集団免疫」をつくる切り札がワクチン接種だ。
新型コロナに限定しなくても、ワクチンの開発・確保が世界的な感染症対策のカギであるというのは常識だ。ところが、「日本のワクチン開発、技術力というのは周回遅れになっている」(田村憲久厚生労働相)のが現実であり、ワクチン開発競争で米英独はもとより、中国やロシアにも後れを取っている。既に接種が始まっているファイザー・ビオンテックに加え、21日に特例承認されたモデルナ・NIH(米国立衛生研究所)とアストラゼネカ・オックスフォード大の新技術によるワクチン開発がなければ、中国やロシアのワクチンを買い取る身の上になってしまうところだった。
なぜ日本でできないことを米国や英国はできるのか。国会で立憲民主党などは、国産ワクチン開発の遅れの理由を政府に問い質(ただ)しているが、どういうわけか英国や米国の成功の秘訣(ひけつ)を突き付けて政府を質そうとはしない。何か不都合な事実でもあるのかと、勘繰りたくなるほどだ。
英国の場合はオックスフォード大学が中心となって開発した。同大には1796年に世界で初めてワクチンを開発したエドワード・ジェンナーにちなんだジェンナー研究所があり、世界有数の専門家が集まっている。2014~16年のエボラ出血熱への対応の遅れを反省し、次のパンデミックに対処する研究を続け、新型コロナウイルスの感染拡大前に画期的なワクチン作りの仕組みを開発していた。
一方、米国の場合は国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)や保健福祉省の生物医学先端研究開発局(BARDA)が国家安全保障の観点から民間企業などの感染分野の研究開発を積極的に支援。DARPAは「貧者の兵器」生物兵器に対応するため短期間でのワクチン開発を目指し、いち早く「メッセンジャーRNA(mRNA)」ワクチンに目を付けてモデルナ社などに研究開発資金を援助していた。それが今回、1年もせずワクチンを開発・製造する成果を生み出した。
開発リスクが大きい新技術への投資は、このような国家安全保障の観点がなければ不可能だ。
ところが日本では、防衛省が15年に「安全保障技術研究推進制度」を発足させると、日本学術会議が「軍事的安全保障研究」には「研究の入り口から研究資金の出所等に関する慎重な判断が求められる」と声明(17年)を出すなど、真逆に向かう動きがある。軍事的観点を欠いた国家安全保障が成り立たないことはワクチン開発一つを見ても明らかだ。
政治部長 武田 滋樹