現行憲法の欠陥、24条は「家族解体」を進める
《 記 者 の 視 点 》
今年の「憲法記念日」(5月3日)は、尖閣諸島周辺への中国公船による領海侵入が頻発するなど、中国共産党が覇権主義的行動を強め、また新型コロナウイルスの第4波の中で迎えた。
この日、大手新聞各社は憲法改正の是非を問う世論調査を公表した。「読売」は賛成56%、反対40%だった。前年は49%対48%で拮抗(きっこう)していたが、今年は差が16ポイントに広がった。護憲派と言われる「毎日」でさえ48%対30%で、反対が10ポイント上回った前年から賛否が大きく逆転した。
中国の脅威とコロナ禍で、憲法への自衛隊の明記や緊急事態条項の新設を支持する国民が増えていることがうかがえる。当然の意識の高まりではあるが、筆者はその2日後の「こどもの日」に、総務省が発表した15歳未満の子供の人口推計を見て、現行憲法のもう一つの大きな欠陥を考えざるを得なかった。家族の大切さが明記されていないことだ。
今年4月1日現在の子供の数は、前年に比べ19万人少ない1493万人で、1982年から40年連続の減少となった。
社会の衰退につながる少子化の深刻化に対しては、昨年出た政府の少子化社会対策白書も警鐘を鳴らしているように、一向に歯止めがかからない。その主な要因については、未婚率の増加や晩婚化など幾つか挙げられるが、掘り下げて考えれば、結婚や家族形成に魅力を感じない日本人が増えているということになろう。
では、なぜ結婚や家族の大切が忘れ去られてしまったのか。その原因については、少なからぬ憲法学者が個人の権利や自由ばかりを強調する戦後の価値観が深く関わっており、その根底に「家族条項」のない現行憲法の欠陥がある、と指摘している。
憲法で結婚と家族について触れているのは第24条だ。その2項で、家族についての法律は「個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない」と定めている。この「個人の尊厳」と「両性の平等」というのは、一見もっともなように思えるが、憲法学を専門とする百地章・国士舘大学特任教授は近著『日本国憲法八つの欠陥』で、「憲法のいう『家族』はあくまで『個人』が中心であり、『個人』を絶対視するもの」で、現行憲法の欠陥の一つとみる。
また、「この『個人』を本気で貫こうとすれば憲法24条は『家族解体』の論理を含意したものとして読むことができるだろう」と、同条文を好意的に解釈した樋口陽一・東大名誉教授の主張を紹介しながら、「家族解体」ではなく「今こそ憲法を改正して、憲法に『家族の保護』を明記し、伝統的な『家族の価値』を再評価すべきである」と訴えている。
百地氏のほか、八木秀次・麗澤大学教授も現行憲法は家族解体を進めていると分析し、西修・駒澤大学名誉教授は家庭内暴力、児童・高齢者虐待の増加などの家族問題は「静かな有事」(『世界の憲法を知ろう』)と述べ、「失われた家族」を取り戻すためにも憲法改正が必要だと訴えている。
憲法改正論議は第9条にとどまらず、家族解体という「静かな有事」の元凶として第24条にも及んでいる。
社会部長 森田 清策