処理水の海洋放出 科学的広報で風評被害なくせ

《 記 者 の 視 点 》

 「科学的根拠に基づいたものとは言えない、感情的で他の思惑が絡まった主張は受け入れがたい」

 東京電力福島第1原発(F1)の処理水の海洋放出決定に対し、中国や韓国の批判が高まっていることについて、公明党の山口那津男代表は14日の党会合でこう反論した。共同通信が伝えているが、公明党の代表が中韓の内政批判にこれほど明確に反論することは珍しい。山口代表は今回の決定が「冷静で透明性のある判断」に基づいたものであり、それを「粘り強く国際社会に訴え、国民にも浸透させる必要がある」とも述べたという。

 問題となっている処理水は、原子炉内で燃料デブリ(溶融した核燃料や原子炉構造物が混ざって冷え固まったもの)冷却に使われた水と流入地下水が混ざった汚染水を、多核種除去設備(ALPS=アルプス)などを用いトリチウム以外の62の放射性物質(核種)を除去したり、濃度を法令で定めた限度(告示濃度限度)以下に低めた水のことだ。

 原子炉の廃炉、特に燃料デブリを取り除くまで根本解決はなく、F1敷地内に造った多数のタンクで保管している。2020年末のタンク容量は約137万トンだが、既に約125万トン以上溜(た)まっており、来年秋には満杯になる見通しだ。増え続ける処理水は廃炉作業の障害になっており、強い地震などで流出する恐れが常に存在する。

 ALPSでも除去できないトリチウムは放射線が紙1枚で遮断されるほど弱く、体内に入っても水の場合は10日間で半分が体外に排出される。自然界にも存在し、国内外の原発等からも毎年排出されている。

 タンクに貯蔵されたトリチウムの総量は約1000兆ベクレルで、福島原発事故以前に全国の原発が1年間に排出していた総量(約380兆ベクレル)の3倍弱で、フランスのア・ラーグ再処理施設の1年間の排出量(約1・4京ベクレル)の14分の1にすぎない。しかも、海洋放出は、トリチウム濃度を国の基準の40分の1程度に希釈した上で長期間にわたって行われる。

 政府は2013年から有識者作業部会で五つの処分方法の検討を進めてきたが、原子力規制委員会初代委員長の田中俊一氏は当初から、海洋放出を推奨しており、現委員長の更田豊志氏も同じ見解を示してきた。

 科学的には既に8年前から方向性は決まっていたわけだ。だが、ただでさえ原発事故に伴う漁業や農業への風評被害が広がる中で、それをどう実行していくかは、政治に与えられた課題であり、今回遅まきながらも菅政権が重い腰を上げたといえる。

 処理水をいまだに「汚染水」と強弁する共産党や社民党は論外としても、原発事故当時の首相や閣僚が多く在籍する立憲民主党がいまだに「当面は地上保管を継続し、福島のみに負担を強いることのない処分方法の検討を」などと主張しているのは、驚くべき無責任さだ。政府は、科学的根拠に基づく広報(説得)と秩序ある海洋放出の実行で、風評被害を最小化すべきだ。

政治部長 武田 滋樹