「お母さん食堂」の名称変更を求める署名運動

《 記 者 の 視 点 》

寛容な心そぐ“ジェンダー教育”

 受験シーズンになると、料理する母親を間近に感じられるダイニングで勉強していた長男のことを思い出す。生真面目な性格からか、中学校時代に不登校で、高校は通信制で学んだ彼にとっては孤独で、極寒の厳しさに例えても大げさとは言えない大学受験だった。

 だから、家事する母親の姿に人一倍、春の温(ぬく)もりを感じ安心して勉強に打ち込めたのだと思う。大学院まで進み、ITエンジニアとして就職できたのは母親とダイニングでの勉強のおかげだったのかもしれない。

 昨年末、ファミリーマートの食品ブランド「お母さん食堂」の名称変更を求める署名運動が話題になった。行ったのは女子高生3人。

 このブランド名は「お母さん=料理・家事」という「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」つまり性別役割意識を助長し「ジェンダー平等」を阻害するというのが理由だった。目標の1万筆には届かなかったが、年末までに7600筆余りを集めた。

 この活動を知った時、わが家の体験との比較から生じた違和感と、女子高生たちを署名運動に駆り立てた教育の危うさを思わずにはおれなかった。ファミリーマートの名称は3年前に立ち上げられたもので、イメージは長男がダイニングで感じた家庭の温かさとも重なる。営利を求める企業が今もその名称を使っているのは需要にマッチしている証左である。

 では、何が女子高生たちを動かしたのか。キャンペーンのサイトに、「先日、ジェンダーや男女平等について学ぶ機会がありました」とあるから彼女たちが受けた教育がきっかけとなったのは明らか。運動にはガールスカウト日本連盟が協力した。

 男女共同参画社会基本法の施行(1999年)から数年後、「男らしさ女らしさ」など性差を否定する「ジェンダー・フリー教育」が広がり、社会問題となったことがある。性別意識は刷り込みだとして、子供たちに男女同室での着替えを行わせるとともに、幼稚園から性行為を教えるなど過激な性教育もはびこった。

 このため、政府はジェンダー・フリーという用語の使用を否定。それに代わって使われているのが「ジェンダー平等」だ。署名運動で「お母さん食堂」が助長するとした性別役割についても、全てを否定するものではないことを明確にした。女子高生たちはこの点を学ばず、実質、ジェンダーフリー教育を受けたのではないか。

 また、男女共同参画社会は「幅広く多様な人々を包摂し、全ての人が幸福を感じられる、インクルーシブな社会の実現」を目指している。だから、そこでは違った考え方に対する寛容な心が肝要で、自分が「正義」と考える価値観を他者に押し付け、違った考え方を排除することではないことも学んでいないようだ。

 「お母さん食堂」の名称変更を求める女子高生には、次のことを望みたい。たとえ自分たちが受け入れ難い名称であったとしてもそこに家庭の温かさをイメージし肯定している人が多いという事実を受け入れる寛容な心を育てる。そして、自分たちが受けたジェンダー教育も「性的役割=悪」という考えに囚(とら)われた大人たちによる刷り込みではないか、と疑ってみる真実追究の姿勢も忘れないでほしい。

 社会部長 森田 清策