混乱続く米大統領選、公平ルールの精神はどこに
《 記 者 の 視 点 》
ワシントン特派員時代にハマったのが、米国の国民的スポーツであるアメフットの観戦だった。アメフットはルールが非常に細かく、「ここまでやるか」と思うほど公平性にこだわるスポーツだ。
ナショナル・フットボールリーグ(NFL)では、タッチダウンのたびにビデオで再確認が行われるほか、審判の判断に異議があれば、監督はビデオ判定を求めることができる。4回以内の攻撃で10ヤード以上ボールを進めるとファーストダウンになるが、その距離が目視では正確に判断できない時は、10ヤードの長さのチェーンを持って来て確認作業が行われる。
そのたびに試合が中断されるのだが、文句を言うファンはいない。公平性を何より重視する米国の国民性を反映したスポーツだとつくづく思ったものだ。だが、混乱が続く大統領選を見ていると、フェアなルールを重んじる精神は一体どこに行ってしまったのか、そう思わざるを得ない。
投票ルールを自分たちに有利に変えようとする試みは、今に始まったことではない。だが、今回の民主党の動きはあまりに露骨だった。
民主党にとって、投票規定をできるだけ緩め、マイノリティー有権者も投票しやすいようにすることが有利になる。新型コロナウイルス禍でも投票できるようにすることを理由に、郵便投票を大幅に拡大させたのはそのためだ。さらに、接戦州で郵便投票の期日延長などを法廷闘争で認めさせたり、投票日間際にルールを変えていった。
「(NFLの王座決定戦)スーパーボウルの試合中にルールを変えるようなものだ」。選挙制度に詳しい保守系シンクタンク、ヘリテージ財団のハンス・ボン・スパコフスキー上級研究員は、民主党のやり方をこう非難した。
投票規定を緩めれば、当然、不正行為のリスクが高まる。トランプ大統領とその支持者から不正があったと訴える主張が相次いでいるが、その大きな要因は民主党が不正を招きやすいルール変更を行ってきたことにある。
大統領選で不正行為がどの程度起きたのか、そしてその不正行為が投票結果を変えるほどの規模だったのかどうかは分からない。だが、民主党が選挙の公平性を歪(ゆが)め、実際に不正が疑われる事例が続出している状況を考えると、トランプ氏の支持者たちが「選挙を盗むな」と叫ぶ気持ちはよく分かる。
トランプ氏が法廷闘争を続けていることを、オバマ前大統領は「民主主義の否定につながる」と批判した。だが、そもそも法廷闘争によって投票ルールを変え、民主主義の根幹を傷つけたのは民主党ではないのか。民主党が法廷闘争で公平性を歪めたのなら、それを法廷闘争で正そうとする権利もトランプ氏と共和党にあるはずだ。
誰が最終的な勝者になるにせよ、トランプ氏と共和党の法廷闘争は米国の民主主義の信頼を守る上で欠かせないプロセスである。選挙不正問題がクローズアップされたことを通じ、今後、フェアなルールを取り戻そうとする機運が高まることが望まれる。
編集委員 早川 俊行