メディアによる言論封じ

《 記 者 の 視 点 》

LGBT教育反対さえ「差別」

 長い間、LBGT(性的少数者)問題を取材・執筆していて、人権の重要性や価値観の違いに対する寛容な姿勢を主張する一方で、現在のLGBT運動に対する反対意見を「差別」と決め付けるメディアの強圧的な姿勢に直面し、「言論の自由」の危機を感じることが珍しくない。

 それが今、埼玉県春日部市の一市議に対して起きている。同市議会は、LGBT支援団体がパートナーシップ制度と性自認・性的指向の差別禁止を求めて提出した請願を9月に採択した。その時、一人反対した井上英治市議(71、無所属)が、支援団体や一部メディアからの非難の嵐にさらされている。

 井上市議は「婚姻は、子供を産み育てる男女・異性間のもので、家庭は社会の基本単位で国や社会の保護を受ける」とした上で、パートナーシップは「憲法違反の同性婚」の実現につながると主張。また、市教育委員会のいじめ相談窓口へのLGBT関連相談は過去5年間ゼロだったことなどから、問題となるような「差別はない」「小中学生にレズビアンやゲイを教える必要はない」と反対した。

 一方、支援団体は井上市議の発言は「周囲との関係に悩む多くの当事者を、さらに攻撃し自己肯定感を傷つける」と抗議声明を発表。メディアも「支援団体が撤回要求」(東京新聞10月29日付)と報道。その後も取材依頼が続いたため、同市議は11日、記者会見を開き、「差別感や偏見は持っていない」とした上で、発言は撤回しないと強調した。

 これに対して、ある記者は「小学生にLGBT教育する必要があるのか、という発言自体に、LGBTの方が否定されたと感じる人もいる」として、その発言自体が「差別」ではないか、と井上議員と論争となった。しかし、小学生に対するLGBT教育に反対する人は少なくないはず。この記者は、そうした人に「差別」のレッテルを貼っていることになぜ気が付かないのか、と首をかしげてしまった。

 さらに驚いたのは、記者会見の翌日放送のTBSの情報ワイドショー「グッとラック!」。この件を取り上げたが、記者会見に出席した筆者が驚かされたのは、番組が「井上市議の発言に対して批判が殺到している」と伝えたことだ。

 市議会事務局のまとめによると、10日までに寄せられた市議発言への賛同と抗議の声はそれぞれ29件。それで、なぜ「批判が殺到」なのか。井上市議によると、抗議の声の中には「今の世の中はネットを甘く見ない方がいいと思う。謝罪した方が身のためだと思いますよ」というのもあり、井上議員は「脅迫的な文書に感じた」という。

 記者会見にはTBSの記者も出ていたのだから、当然、この事実は知っている。しかし、そこにまったく触れずに「批判が殺到」とは、偏向報道そのものだ。しかも、前述の数字は12日には賛同44件、抗議41件に変わっている。

 番組のコメンテーターたちは井上市議の発言について「春日部の人は恥ずかしい思いをしている」「こんな春日部の町には、息子には住んでほしくないと思った」とまで語っている。それこそ春日部市民への差別発言であり、言論の自由を踏みにじるものだろう。

 社会部長 森田 清策