うがい・手洗い・マスク、世界に誇れる日本人の生活習慣
《 記 者 の 視 点 》
「うがい」「手洗い」「マスク」。日本人の生活習慣として根付いている三つの行為が世界から注目を集めている。
新型コロナウイルスの緊急事態宣言を発表し、行政が強制的(罰金等の処罰)に封じ込めようとした国がある中、日本は強制力のない緊急事態宣言を出し、感染爆発が起きなかったことを、世界が驚きをもって伝えた。その要因の一つとして上記の三つの生活習慣を挙げる。
そもそも日本の「うがい」「手洗い」「マスク」はいつから始まったのか。
「手洗い」は、日本で最初に大きな疫病(病名不明)が流行(はや)ったとされる3世紀中頃。第10代崇神天皇が、神社に手水舎を造り、手洗いや口をゆすぐことを奨励したのが始まりとされる。それを伝える記述が『古事記』や『日本書紀』にあり、この時代には、日本の人口が半分にまで減ったことも記録されている。
手水舎で手を洗うという行為はその後、食前やトイレの後に手を洗うという習慣として庶民の間に広まっていった。予防法として科学的に証明されたのは19世紀になってからだ。
「うがい」は、平安時代後期に書かれた『中外抄』、鎌倉時代の初期に書かれた『水鏡』の中に用例があり、当時は、口の中を清潔にするための行為だった。語源は、「鵜飼(うか)い」からという説がある。鵜が魚を飲み込んで、それを再び吐き出す姿からといわれるが明確ではない。うがいが“風邪”予防に効果があることが科学的に証明されたのは意外に新しく、今から18年前に京都大学の川村孝教授のグループにより証明された。新型コロナやインフルエンザの予防については、科学的には証明はされていない。
「マスク」は、「うがい」「手洗い」よりも新しく、明治初期に日本に伝わった。当時は、真鍮(しんちゅう)の金網を芯に布地をフィルターとし、主に粉塵(ふんじん)除(よ)けとして使用されていたが、スペイン風邪(1918年)をきっかけに国内で広まった。国産のマスクも作られ、23年に「壽(ことぶき)マスク」が商標登録品第1号に認定された。34年にインフルエンザの大流行でマスクは飛ぶように売れた。50年にガーゼマスク、73年に不織布プリーツ型が誕生。その後、花粉用や立体型などが登場する。
「うがい」「手洗い」「マスク」を日本人が“衛生観念”として認識するようになったのは、幕末から明治期にかけて、日本でコレラが流行してからだ。
1877年、内務卿・大久保利通が通達した「虎列刺(コレラ)病豫防(よぼう)心得書」には、石炭酸(フェノール)による消毒や便所・下水溝の清掃、看護に当たるときの心得として、看護担当者以外は、不要不急の外出を禁じている。その他、身体を清潔にし、換気などをして疫病の流行が過ぎ去るのを待った。
対処法としては時代が変わってもそれほど変わってはいない。「うがい」「手洗い」「マスク」はこうした経験を真摯(しんし)に受け止め、100年以上の長きにわたり国民の中に根付いた、世界に誇れる予防法だと言える。
文化部次長 佐野 富成