躍動感乏しい政治 弊害ばかり目立つ小選挙区制

《 記 者 の 視 点 》

 新型コロナウイルス対策に追われた通常国会が17日に閉幕したが、最終盤から大波乱が続いた。

 河野太郎防衛相による唐突な陸上イージス配備計画停止の発表(15日)、検察幹部の定年延長特例措置でもめた検察庁法改正案を含む国家公務員法改正案の廃案(17日)、そして、自民党を離党したばかりの現職国会議員、河井克行・案里夫妻の電撃逮捕(18日)だ。いずれも安倍晋三政権が重点的に推進した事案(支援した人物)が挫折する深刻な事態で、政権に与える衝撃は甚大だ。

 かつての自民党なら、反・非主流派に主流派の一部も加わって“安倍おろし”の大合唱が響き渡っても不思議でないが、今は辛口やシニカルな批判はあっても、倒閣運動は起こらない。

 首相の在職日数は通算では既に憲政史上最長。民主党から政権奪還した2012年12月から続く連続日数でも今年8月24日に大叔父の佐藤栄作元首相を抜いて歴代最長となる。総裁任期は1年3カ月残っているが、後継問題が浮上しない方が異常だろう。

 もちろん党内には、岸田文雄政調会長や石破茂元幹事長、菅義偉官房長官など「ポスト安倍」候補と目される議員は多い。だが、その動きはせいぜい政権構想づくりに向けた直属の戦略本部や議連を立ち上げる程度にとどまっている。

 そんな中、安倍首相は18日の記者会見で、自ら「ポスト安倍」について語った。首相はまず、「後継者というのは、育てるものではなくて、育ってくるもの」だと表明。佐藤栄作政権を例に取って、佐藤氏は「三角大福中」(三木武夫、田中角栄、大平正芳、福田赳夫、中曽根康弘)を育てたのでなく「活用した」だけであり、当人たちが与えられたポストを生かして、切磋琢磨(せっさたくま)しながらチャンスをつかんだのだと敷衍(ふえん)した。

 その言や良し。だが、今とは条件が違い過ぎる。三角大福中はいずれも叩(たた)き上げ議員で、自力で派閥の長に就いた。何よりも当時、衆院は定数3~5人の中(大)選挙区制で、議員各自が地盤・カバン(資金)・看板を持つ「一国一城の主」で、それをまとめる派閥の領袖は首相とて簡単に動かせるものではなかった。

 それに反し、今の衆院は小選挙区比例代表並立制で党が選挙を仕切るので、自立しない支店長型の議員も少なくない。如何(いか)に実力者でも、首相に造反すると党総裁(首相)への道はほぼ閉ざされる。小泉純一郎政権の“郵政選挙”がその厳しい現実を見せつけた。

 小選挙区制は1996年の総選挙から実施され、既に四半世紀近い歴史を持つが、当初抱いた政権交代可能な二大政党制、政策本位のクリーン選挙への期待は民主党政権の崩壊と共に消え去り、今は“1強”体制を生みやすい半面、政策抜きの野合がはびこる弊害ばかりが目立つ。

 政治はあくまでも人が行うので選挙制度への過度の期待は禁物だが、躍動感の乏しい政治を見るにつけ、小選挙区制見直しの必要性を痛感する。

 政治部長 武田 滋樹