感染症と「夜の街」 第2波を左右する「欲望」

《 記 者 の 視 点 》

 東京都庁のライトアップが11日夜、赤から虹色に変わった。新型コロナウイルス感染への警戒を呼び掛ける「東京アラート」が解除され、12日から休業要請緩和のロードマップは「ステップ3」に移行した。

 これに伴い漫画喫茶、パチンコ店など接待を伴わない施設の営業が再開。19日からは接待を伴う施設への休業要請も終了する。

 アラートの解除について、小池百合子知事は「“withコロナ”の新しいステージに入った」と語った。「3密」を避けてコロナ感染予防を念頭に置いた新しい日常生活をスタートしてもらおうというのだ。

 だが、「第2波」への対策における懸念材料は残ったまま。接待を伴う飲食店が密集する新宿歌舞伎町など「夜の街」のことだ。11日の都内の陽性判明者は22人だったが、このうち6人はホストだった。今月7日までの1週間では、夜の街関係者は全感染者の4割を占めた。休業要請中でもこの状況。解除されたらどうなるのか。

 ホストクラブやキャバレーなど接待を伴う施設で感染者が出た場合、客の追跡調査は難しく、夜の街から一般の街に感染が広がる懸念もある。都は、従業員に定期検査を受けてもらうなど、感染予防に努める方針を明らかにしているが、この問題への対処がコロナの第2波を大きく左右するだろう。

 人から人にうつる感染症防止にとって、夜の街は鬼門だ。今では死語となったが、「花柳病」という言葉があった。梅毒、淋病(りんびょう)などの性感染症のことだ。国立感染症研究所(感染研)感染症情報センター長などを務めた井上栄氏の著書「感染症」にこんなくだりがある。

 「むかし『Venus(ビーナス)の病気』(VD:venereal disease)また花柳(かりゅう)病という病気があった。VDは、梅毒の流行した十六世紀につくられたフランス起源の言葉だ。売春婦と、売春婦から感染した男がかかる病気だった。二十世紀後半になって、『性感染症』(STD:sexually transmitted disease)が取って代わった。普通の場所で、普通の男女がかかる病気になったからである」

 普通の人が感染する病気になるということは感染者が増えるということだ。梅毒は1993年以降、年間400~800人台で推移していたが、2011年から増加に転じ、17年には5000人を超えた。

 治療薬ペニシリンが発見されるまでは「梅毒の流行に対処するには、性欲の抑制しかなかった。一夫一婦制のもと、社会は婚前・婚外の性交渉を非道徳とした」(井上氏)。梅毒感染者の増加は、性道徳の乱れが原因なのは間違いない。

 ワクチンも治療薬もない中でのwithコロナは、人の行動変容で対処するしかないが、欲望の抑制がコロナ前と同じでは、コロナの第2波は夜の街から一般の街に拡大するだろう。

 歌舞伎町の別名は「欲望の街」。都庁のライトアップは赤のままでもいいのではないか。

 社会部長 森田 清策