コロナ危機と家庭の価値 困難を絆深める機会に

《 記 者 の 視 点 》

 「もちろん野球がしたい。でも、子供たちとこのような体験ができるのは、特別なことだよ」

 昨年の米大リーグ・ワールドシリーズを制覇したワシントン・ナショナルズのライアン・ジマーマン選手が米メディアに掲載されたコラムでこう書いていた。ジマーマン選手といえば、ナショナルズ一筋のキャリアから、地元ファンの間で「ミスター・ナショナルズ」と親しまれているベテラン内野手だ。

 コラムは新型コロナウイルスの影響で野球ができない日常をつづったものだった。シーズン開幕が遅れていることを残念がりながらも、2人の娘と一緒に食事をし、自転車に乗り、本を読んだりと、子供の成長を間近で見られる日々に感謝していた。遠征やナイターが多いシーズン中は、小さな子供とゆっくり過ごすことができないからだ。

 新型コロナが国際秩序を劇的に変えたことは間違いなく、既に「コロナ後の世界」を睨(にら)んだ議論が活発に行われている。ただ、今回の危機がもたらす影響は、国際関係にとどまらず、一般国民の日常生活にも広く及んでいる。家族の在り方にどのような影響が及ぶかも、注目していくべき重要なテーマであろう。

 日本でも外出自粛や学校休校によってDV(ドメスティックバイオレンス)や児童虐待のリスクが増大していることに懸念が出ている。経済状況の急激な悪化で、結婚を躊躇(ちゅうちょ)する人が増え、婚姻率が下がる可能性もある。失業や収入減は、多くの世帯に深刻なストレスをもたらしている。

 コロナ危機は日本を含め、世界中の家庭にさまざまな形で負の影響を及ぼすことは避けられない。だが、こうした暗い見通しの中でも、「希望の兆しがある」と主張するのは、結婚・家庭学の権威であるブラッドフォード・ウィルコックス米バージニア大学教授だ。

 ウィルコックス氏は、コロナ危機でもほとんどの結婚は破綻せず、むしろ「より強くなり、安定するだろう」と予想する。ウィルコックス氏によると、世界経済に大打撃をもたらした2007~09年のグレート・リセッションをきっかけに、米国の離婚率は逆に2割も低下した。困難な時ほど、夫婦は配偶者や家族のありがたみを実感し、愛情や絆が深まるためだという。

 ウィルコックス氏は、今回の危機では「離婚率がもっと早く低下する可能性が高い」と予測する。さらに、人々の結婚観までも大きく変える転機になり得ると論じる。恋愛感情を中心とした自己満足的な「ソウルメイト・モデル」の結婚から、夫婦が支え合って子供を育てていく「ファミリーファースト・モデル」の結婚が増えていく、というのだ。

 日本でも同じことが当てはまるかどうかは分からない。だが、冒頭のジマーマン選手のコラムのように、今まであまり持てなかった家族と過ごす時間を楽しんでいる人も少なくないはずだ。

 災い転じて福となすではないが、今回の危機を、家庭の価値を再確認する機会にしたいものである。

 編集委員 早川 俊行