新型コロナとの戦争

《 記 者 の 視 点 》

管理社会と違う勝利の方式示せ

 先週金曜の朝、何気なく見ていたテレビ(NHK放送)で衝撃的な画面を見た。

 中国・上海で行われた男女数人ずつがテーブルを囲む飲み会で、皆が一斉にスマホに表示された数字を見せ合うのだ。幹事役の男性は638点、そして各自の点数が次々と映し出される。

 この点数は、ネット通販やスマホ決済などで9億人を超えるユーザーを持つ中国IT業界の巨人、アリババグループが行う個人の信用格付けの点数だという。

 638点は良好(600点以上)、650点を超えると優秀、700点超は5段階の最上位ランクとなり、逆に500点を下回ると最下位ランクになる。点数によってアリババ関連企業のさまざまなサービスが受けられるだけでなく、不動産契約で家賃が割り引かれたり、婚活の相手選びの基準にもなるという。

 何が衝撃的だったかというと、まず若者たちが何の躊躇(ちゅうちょ)もなく点数を見せ合っている点だ。個人情報露出に敏感な日本人の感覚からすれば個人格付け自体受け入れ難いが、中国では既に、それが社会的な評価の基準として根付いているわけだ。

 二つ目は、「シェア自転車の利用履歴が信用スコアに影響する」との情報が広がることで、利用者のマナーが良くなったという点だ。個人格付けという見えない監視網が、道徳実践の力になっている。かつて日本では「お天道様」や人の目が、キリスト教国家では全知全能の神が道徳実践の監視機能を果たしていたが、ネットとAI(人工知能)の複合体が、それにとって代わったといえる。

 欧米や日本のIT大手はビッグデータを商業的に利用はしても公に個人格付けは行わない。個人情報の保護という制約があるためだ。しかし、アリババは中国政府の意向にさえ従えば、さまざまな規制は問題にならない。

 それで中国政府は行政情報に加え、各地に設置した監視カメラ(プラス顔認証技術)の情報や大手IT企業を通して入手できるネット情報を通して、国民の経済状況や交友関係、日常的な動線、趣味などに至る個人情報をほぼ丸裸にできる。既に唯一絶対の統治力を持つ中国政府は科学技術の力を借りて未曽有の管理統制社会を実現したのだ。

 欧米を中心に世界的な新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、中国は3月10日、習近平国家主席が武漢市で、新型肺炎撲滅「人民戦争」の勝利宣言を行った。額面通り受け取れない面はあるにしても、新型コロナ“抑え込み”に中国の管理統制社会が一定の効力を発揮したことは否めない。

 その一方で、自由を謳歌(おうか)してきた欧米社会は新型コロナ感染拡大に対して弱点をさらけ出し、日本も苦戦が続いている。強制力のある措置でも基本的人権を完全に無視できない以上、最終的には個人の良識頼みになるためだ。コロナ禍以降をにらみ、中国や北朝鮮の管理統制社会とは違う、自由と責任、良識に基づく勝利の方式を打ち立てる国が必要だ。緊急時の結束力がある日本にはその潜在力があると思うのだが。

 政治部長 武田 滋樹