「緊急事態宣言」の効果 国難モードに切り替わったか

《 記 者 の 視 点 》

 「茹(ゆ)でガエル理論」というのがある。カエルを熱湯に入れると、驚いて直(す)ぐに飛び跳ね逃げるが、冷たい水に入れて徐々に水温を上げていくと、カエルは熱湯になるのに気付かず、茹でガエルになってしまうという寓話(ぐうわ)があるが、これをビジネス業界などで、環境の変化に対応することの重要性を強調するために使われる警句になっている。

 新型コロナウイルス感染が拡大し続け、7日、安倍晋三首相が緊急事態宣言するに至った日本の状況を、自宅でテレワークしながら振り返った時、茹でガエル理論が頭に浮かんだ。

 日本国内で初めての感染者が確認されたのは1月16日。以降、保健衛生当局者の努力もあって、他国に見られるような爆発的感染は抑えられてきたが、先月末から急増し、今月9日には、感染確認者が5500人近くに達し、死者も100人を超えた。

 緊急事態宣言の後、安倍首相は「最低7割、極力8割、人との接触を減らしていただければ、必ずわれわれはこの事態を乗り越えることができる」と強調した。小池百合子都知事や感染症の専門家はそれ以前からテレビ出演や動画を通じて、「密集」「密閉」「密接」の「3密」を避けてほしい、と頻繁に訴えてきたが、これに応えて行動変容した国民はどれほどいるだろうか。

 スマートフォンの位置情報から、緊急事態宣言後の8日朝、東京都心3区(千代田、港、中央)への通勤時間帯の来訪者数は平日に比べ半分以下に減少したとする推計を、ヤフーが発表した。同日朝、霞が関を訪れるため電車に乗った筆者の印象として、乗客数は甘く見て半減というところで、とても7割減には至っていなかった。

 新型コロナによる国難は、よく9年前の「3・11」と比べられる。しかし、大震災とウイルス禍には大きな違いがある。前者は死者・行方不明者1万8千人超を出しただけでなく、東京でも大きな揺れを体験し、テレビでは人家や車をのみ込む津波や福島第1原子力発電所の水素爆発の様子が映し出され、その恐ろしさが国民全体に広がるのに時間はかからなかった。

 一方、目に見えないウイルスの脅威は徐々に広がる。海外の医療崩壊の現状をテレビで見てもひとごと。その上、日本人の環境への適応力が裏目に出て、行動基準がまだ平時から緊急時モードに切り替わっていない国民がかなり存在するのではないか。

 ウイルスの封じ込めとしては、強権的な外出禁止や都市封鎖(ロックダウン)を行うのが最も合理的であろう。しかし、それを即座にやってのける全体主義国家とは違い、わが国は現行憲法をはじめとした法体系の不備もあって、それを行うのは極めて困難である。従って、国難に即した行動変容は国民の一人ひとりの自覚に懸かっていると言っていい。

 きょう、緊急事態宣言後の初めての週末を迎えた。昨日(10日)、休業要請の対象業種を発表した小池都知事は「この1カ月、総力を挙げて(人の外出を)8割減を目指す」と誓った。この週末、もう一度、行動変容のスイッチを入れ直し、決して爆発的な感染拡大も医療崩壊も起こさないし、ましてや茹でガエルにはならない、と心を一つにしたい。

 社会部長 森田 清策