停滞する憲法審査会 早急に改正原案の討議に入れ

《 記 者 の 視 点 》

 衆院憲法審査会が今月7、14の両日開かれ、欧州視察(9月下旬)の報告に関する自由討議を行った。立憲民主党の枝野幸男代表がこの場で山尾志桜里氏が国民投票に関するCM規制の議論と「合わせて憲法の中身についても自由討論を行うべきだ」と述べたことに「不快感」を示すことがあって話題を呼んだが、本来、「憲法改正原案、憲法に係る改正の発議又は国民投票に関する法律案等を審査する機関」として、2007年8月に設けられた憲法審では筋違いの話題だろう。

 憲法審の前身、衆院憲法調査特別委員会の委員長として国民投票法の成立(07年5月)を主導した中山太郎元外相は08年3月のインタビューで、同法制定により「主権者である国民が自ら憲法を改正する手立てができた」と指摘し、憲法改正を富士山に例えると、「7合目」まで来ているとの見方を示した。

 だが当時は、07年参院選勝利で第1次安倍政権を終焉(しゅうえん)に追い込んだ民主党の小沢一郎代表が“ねじれ国会”を利用し、あらゆる審議を停滞させて自民党政権を揺さぶっていた頃であり、憲法審も空転を余儀なくされた。

 実はその頃、民主党を代表して国民投票法や憲法審に関わり、現場でいくら合意しても無視する小沢氏の強引な手法を不平まじりの言い訳にしていた人物こそ、枝野氏だった。状況と立場が変わると、当然、人も変わるものではあるが…。

 憲法が抱える問題は多いが、やはり最も大きいのは自衛隊の存在だ。事務官等を含めて定員約26万8000人、陸海空に莫大(ばくだい)な装備を持つ巨大組織が、憲法の明示的な根拠を持たない。

 名が示すように自衛隊は国際法で認められた「主権国家としての固有の自衛権」に基づいているが、これが憲法に明記されているのでなく、「自衛権そのものは放棄するとも否認するともいっていない」(否定していない)ので、「日本は自衛権を有し、その行使を裏づける自衛のための必要最小限度の実力を保持することは、憲法上認められる」と解釈されているわけだ。

 だが、あの巨大な人員と装備を「必要最低限の実力」でなく「戦力」と見れば「憲法違反」と解釈されてしまう。事実、旧社会党や共産党は自衛隊「違憲」論の立場に長く立っていた。村山富市首相の自社さ連立政権誕生(1994年6月)とともに社会党は自衛隊容認に転じたが、共産党は今も綱領に「憲法第九条の完全実施(自衛隊の解消)」と明記しており、今回の改定でもそのまま残した。

 イデオロギーや学問的な立場から自衛隊を「違憲」と言い続けるのは仕方がないにしても、創設から65年もたち、大災害に際する救援活動などで国民の9割が好印象を持つ時代になっても、憲法にその存在の明示的な根拠を持たない状態がそのまま続いている。これは、政治の怠慢と言うしかないだろう。

 憲法審査会はもう一度本来の使命を肝に銘じ、国民投票法の討議・採決を急ぐと共に、早急に改正原案の討議を始めるべきだ。

 政治部長 武田 滋樹