辺野古埋め立てへの対応に翁長支持者からも不満が噴出

本体工事開始に苛立つ

 米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設問題で、国土交通省が名護市辺野古沖の埋め立て承認取り消しの決定を取り消すよう勧告したのに対し、沖縄県は、6日、「取り消しは適法で、取り消す考えはない」という文書を同省に送った。ところが、「あらゆる手段を使って新基地建設を阻止する」と繰り返す翁長氏をよそに、辺野古沿岸部埋め立ての本体工事が始まり、移設反対派の抗議活動は激しさを増している。(那覇支局・豊田 剛)

県の係争処理委への審査申し出却下も

政府は「法令に基づいて」

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国地方係争処理委員会へ審査申出書を提出した後、記者会見した翁長雄志知事=2日、沖縄県庁

 翁長氏は10月13日、埋め立て承認取り消しを決断したことを受け、国交相は27日に知事の取り消し処分の効力停止を決定。政府は29日に埋め立て本体工事に着手した。

 辺野古のキャンプ・シュワブのゲート前では、全国から自治労や退職教員、過激派らがゲート前を封鎖しようと座り込むなど抗議活動が激しさを増し、今月4日には警視庁の機動隊200人が動員された。これについて翁長氏は6日の記者会見で「政府はなりふり構わずに移設を強行しようとしている」と従来の主張を繰り返した。

 ゲート前でマイクを握る反基地活動家の一人は、「翁長知事はなぜ、機動隊の動員を許したのか。本体工事が始まってしまったが、私たちが支持している国会議員、県議会議員はいったい何をしているのか」と叫び、革新系政治家に対する不満を口にした。

 「辺野古に新基地を作らせない」という翁長氏を信じ、ゲート前で抗議活動をしている革新系活動家にとっては工事着手は受け入れがたい現実だ。知事選から1年近くも待ったにもかかわらず、政府との交渉が十分にできず、工事阻止ができなかったことへの苛(いら)立ちが募っていることを露呈した場面だった。

 政府が知事の取り消し効力停止の判断をした理由は、「普天間飛行場の移設事業の継続が不可能となり、飛行場周辺の住民が被る危険性が継続するなど重大な損害が生じるため、これを避ける緊急の必要性があると認められる」というもの。

 また、効力停止の申し立てをした防衛省は、①仲井真弘多前知事による承認に不合理な点はないこと②空軍嘉手納基地以南の返還、基地負担軽減を着実に実施③ウミガメやジュゴンなどの保全配慮―を主張し、知事の取り消し処分を違法と主張した。

 これを受け、石井啓一国交相は10月27日、翁長氏に代わって取り消しを正式に撤回する「代執行」に向けた手続きの一環で勧告をした。この決定を不服として、県は11月2日、第三者機関「国地方係争処理委員会」へ審査を申し出た。

 係争処理委は90日以内の来年1月31日までに結論を出す。県側の主張が認められれば、停止されている承認取り消しの効力が復活する。県の主張が認められなかった場合、さらに、係争処理委の審査結果に不服がある場合は、決定から30日以内に政府を相手取って国交相の執行停止の取り消しを求めて法廷闘争に入る。

 係争処理委への地方自治体の申し出はこれまで、全国で2例しかない。県の申し出が審査の対象外として却下される可能性すらある。

 11月6日には、翁長氏は次のカードを切った。

 国交相が是正期限として定めた6日、翁長氏は国交相の勧告を拒否する旨の文書を発送した。また、取り消し効力を停止した国交相の判断に関し、見解をただす質問状も併せて送付した。

 記者会見で翁長氏は、「承認には取り消し得べき瑕疵があるものと認め、取り消しを行った。取り消しは適法と考えており、勧告に従うことはできない」と声明を読み上げた。

 国交相は続いて、是正勧告を受け入れなかった翁長氏に撤回するよう指示する。「指示」は強制力が増すが、翁長氏はこれにも従わないことを決めた。

 菅義偉官房長官は、一連の翁長氏の判断について6日の記者会見で「法治国家として、法令に基づいて適切に対応していく」と述べた。県は今月中旬以降にも高等裁判所に提訴することが想定される。数カ月後には高裁判決が出るが、最高裁の判決に委ねるのは必至の情勢だ。


辺野古埋め立て承認取り消しをめぐる県と政府のやりとり

10月13日 翁長雄志知事が「承認には瑕疵がある」との理由で辺野古沖の埋め立て承認取り消しを決定

14日 防衛省沖縄防衛局が国交相に知事の決定の執行停止を申し立て、それに基づき、国交相が県に意見書と弁明を求める文書を発送

21日 県が国交相に意見書と弁明書を発送

27日 国交相が承認取り消しの執行停止を決定、政府は閣議で国が知事に代わって取り消しを是正する「代執行」手続きを開始

29日 沖縄防衛局が埋め立て工事に着手

11月2日 県が国地方係争処理委員会に審査を申し出

4日 キャンプ・シュワブのゲート前に警視庁機動隊が配備される

6日 県が国交相に公開質問状と是正勧告を拒否する文書を発送

9日 国交相が承認取り消し撤回を「指示」する文書を発送、その中で3日以内の知事の回答を要求


国地方係争処理委員会

 総務省に設置されている第三者機関。国と地方自治体との間で法令運用などをめぐり争いが生じた際に調整を図るための組織。委員は行政法の専門家ら5人で構成され、委員長は小早川光郎・成蹊大学法科大学院教授が務める。