当事者の人権に偏り“性の偏見”という考え方を植え付けるクロ現
◆公共放送の使命逸脱
いわゆる「LGBT」(性的少数者)についてのNHKの取り組み姿勢をフォローしていると、当事者側の視点に偏り過ぎて視野が狭まり、一般の人々の人権が忘れ去られていると感じることがしばしばある。その結果、公共放送としての使命を逸脱し、“洗脳機関”になっているのではないかとの疑念を抱くことさえある。
6月11日のNHK「クローズアップ現代+」(クロ現)は「“性の偏見”取り払えますか?~LGBTに寛容な社会のために~」をテーマに放送したが、筆者の疑念をさらに強める内容だった。
番組は、LGBTが働きやすい環境づくりに取り組む企業にスポットを当てながら、「多様な性」に寛容な社会を実現しようとの趣旨で展開した。しかし、冒頭から「LGBTは、左利きの人と同じくらいいる」という、使い古されたフレーズが登場したのには呆(あき)れてしまった。
左利きは、人口の1割程度存在するというのが定説だ。番組はLGBTの割合は「8・9%」と出た電通調査を紹介したが、この調査は学術的に評価されたものではない。にもかかわらず、NHKがこの調査を根拠として出す狙いははっきりしている。「LGBTは想像以上に多い」と視聴者に思い込ませて、男性・女性についての伝統的な価値観に疑問を持たせようというのである。
次のような場面もあった。都内の私立高校で、LGBTについての勉強会を行っている生徒が文化祭で、来場者に「左利きの人と同じくらいの割合がいるという統計がある」と説明した。その高校生はNHKに洗脳されて「左利き……」と言ったのかもしれない。
◆周囲の人にも配慮を
一方、番組は大阪で老人ホームを運営する社会福祉法人の取り組みを紹介した。この法人は以前、周囲の目を気にしたトランスジェンダーが退職したことから、それを防ぐため、対応を見直しているのだという。
そこで、性的適合手術を受けて、今は男性として暮らす「LGBTキャリアアドバイザー」に、仕事場のチェックを依頼する。アドバイザーは最初に更衣室を調べ、トランスジェンダーにとって、通常の更衣室では、着替えが苦痛になることを指摘する。
だが、心が男性だからといって、単純に男性として扱うことの危なっかしさは、当事者の意見を聞くまでもなく気付くことではないか。それは、心が女性で体が男性の場合を想定すれば、さらに分かりやすい。当事者だけでなく、少なからぬ周囲の女性たちは絶対に一緒に着替えしたくないと思うだろう。
人間の性は、「心の性」で決まる、と型通りに考え、トランスジェンダー問題に対応すると、当事者を取り巻く状況は改善しないどころか、逆に差別的な状況を煽ることにもなりかねない。
LGBTの当事者が働きやすい環境づくりを進めたとしても、そのことで働きにくくなっている人はいないのか。同性愛や異性装を禁じる宗教もあるから、そうした人への配慮も必要だ。
LGBT当事者の人権だけを考えていると、そうでない人の人権を侵害することになるというジレンマも想定し、この問題に対応する必要があるのだが、クロ現には、そうした視点は見られなかった。
◆一つ間違えば洗脳に
スウェーデンは、2000年代に入って国が同性愛差別を禁止する法律を整備したことで、同性愛に対する寛容度は世界トップレベルだという。番組の中で、同国の男女平等担当相がこんなことを言った。「国のルールや価値観は、必ず変えることができる。そうすることで社会はより良く、より強くなる」。
「偏見だ」「差別だ」と、政府が上からの目線で、国民の価値観を変えようとすることは、一つ間違えば洗脳になるし、全体主義にも通じる発想。NHKはそんな危険なことをここ数年、LGBT支援で行っているのだ。
(森田清策)