「望まぬ解放のされ方」と語る安田純平氏の「自己責任」追及に及び腰の2誌
◆勧告を無視し人質に
シリアで人質となっていたジャーナリストの安田純平氏(44)が解放され帰国した。無事の帰還は喜ばしいものの、安田氏の発言などがメディアやインターネト交流サイト(SNS)で問題となっており、人質事件のたびに繰り返される「自己責任論」が改めてクローズアップされている。
火を付けたのは安田氏が帰国の機内で語った「日本政府が何か動いて解放されたかのように思う人がいるんじゃないか。望まない解放のされ方だった」のコメントである。
安田氏は日本政府が「退避勧告」を出し、危険だから行くなと言っているのに、自己責任を謳(うた)って、いわば“勝手に”紛争地に入った揚げ句、人質となった。これに対して日本政府は「邦人保護」という当然の国家の義務を遂行したところ、その救出努力を「望まないやり方」だと切って捨てたのだ。
週刊新潮(11月8日号)はこれが「正しい振る舞いだったのか」と疑義を挟む。随分と遠回しな言い方だが、意訳すれば「助けてもらったのに、その態度はなんだ」ということだろう。
安田氏は政府の勧告を「いまだに危ない危ない言って取材妨害しようなんて恥曝しもいいところ」とツイッターで「啖呵を切った」と同誌は紹介している。こうした経緯があるから、政府が救援に動いたことにもあまりありがたみを感じなかったのかもしれない。
◆救出に努力した政府
しかし、政府はそれでも救援に努力した。菅義偉官房長官が「国際テロ情報収集ユニットが機能した」と明らかにしている。安田氏救出のために「カタールやトルコの情報機関と信頼関係を築き、彼らにシリアの反政府勢力と交渉してもらった」と「公共政策調査会の板橋功・研究センター長」は同誌に語る。
「ジャーナリストの山村明義氏」は「ユニットが動いたからこその解放であり、5、6億円の経費が掛かったとの情報もある」とし、「カタールなどへの『借り』」もできたと指摘、今後「日本国家の外交的動きが制限されかねない」と危惧を示す。
「在英国の人権団体からは、カタール政府が約3億円の身代金を払ったとの情報も出ている」(大手メディア外信部デスク)という。カタールにはカタールの目的があって金を使ったようだが、もともと人質事件がなければ動かなかった金で、少なからずこの地域の情勢に影響を与えるものだ。
実際に政府に負担を掛けたのだから、それを「望まないやり方」と注文を付けられる立場ではないことは中学生でも分かる理屈だ。安田氏は2日に会見し、「日本政府が当事者になってしまった点について、大変申し訳ないと思っている」と陳謝はしている。犯罪組織に巨額の身代金が渡ったことを「望まない」方法だという指摘だったのなら、はっきりとしたコメントを出すべきである。
◆手記の出版が狙いか
それにしても同誌の記事はどこか腰が引けている。週刊誌に限らず、新聞テレビなど大手メディアは戦地に入っての取材はあまり行わない。自社の社員が命を落とせば、莫大(ばくだい)な補償が必要となるからだ。
1990年の湾岸戦争の時、大手メディアの“特派員”たちはドーハやアブダビの五つ星ホテルに陣取り、CNNを見ていたぐらいで、現地にはフリーランスの契約記者を送っていたと知り合いのテレビ局員が明かしていた。どうしても戦場取材は彼らフリー記者に頼る構図がある。
週刊文春(11月8日号)では夫人の深結(みゅう)さんの人となりにも焦点を当て、安田氏とのなれ初めなども紹介している。新潮ほどには批判のトーンはない。安田氏が人質となったのも「これはもう仕方なかったとしか言えません」と「報道カメラマンの八尋伸氏」のコメントを載せた。そして「可能な限りの説明をする責任がある」とした安田氏の言葉を挙げ、それに「注目が集まる」というだけだ。
週刊誌こそフリー記者に頼るところ大であるためなのか、はたまた安田氏の手記出版でも狙っているからなのか、両誌ともに「自己責任」でぐいぐい安田氏を責める記事にはなっていない。これまで3度人質になっている“ベテラン”安田氏の本を出したいという下心さえ感じさせる。
(岩崎 哲)