対テロ連合創設するサウジの狙いに疑惑の目を向ける西側メディア
サウジアラビアが、中東、アフリカ、アジアの34カ国・地域から成る対テロ「イスラム軍事連合」を新たに結成すると発表した。標的は、イラク、シリアで勢力を維持し、世界各地でテロを実行している過激派組織「イスラム国」(IS)とみられているものの、連合を率いるサウジ自体が、急進的なイスラム思想を国家の思想的中心に据えていることなどから、西側メディアからは、「まずは国内の掃除から」(ブルームバーグ通信)などと否定的な見方が出ている。
英紙ガーディアンは、連合結成について、「この地域に集中した『イスラム国』に対する戦略を強化」すると期待感を表明する一方で、「人権と世界観をめぐる疑念」は残るとしている。
サウジは、メッカ、メディナのイスラム教の二大聖地を擁し、多数派であるスンニ派の盟主をも自任する、主要イスラム国家の一角だ。だが、厳格な教義で知られるワッハーブ主義を信奉し、シャリア(イスラム法)の厳格な適用でも知られる。
イスラム法に基づく残虐な刑の執行や女性の権利の制限など、人権問題が西側世界から指摘されることもしばしばだ。
また、公的資金、民間からのザカート(喜捨)など潤沢な資金が、ワッハーブ主義の拡散のために世界中のモスクの建設、維持・管理に充てられていることは周知の事実だ。ワッハーブ主義は、イスラムの原点回帰・純化を求めている。そのサウジが中心になって、やはりイスラムの原点回帰を果たすために武力による聖戦を手段とするISに対抗しようという動きに、西側から懐疑的な反応が出てくるのは無理もないことだろう。
宗派代理戦争を懸念
サウジはシリア内戦では、反アサドに名乗りを上げ、空爆も行ってはいるものの、その本気度は疑問視されてきた。また、人権侵害などで傷ついた「国際的イメージの向上」(同紙)という狙いがあるのではないかという指摘もある。
さらに同紙は、連合にシーア派が多数派であるイラン、イラクが入っていないことから「シリアでのサウジとイランによる宗派代理戦争を激化させる」のではないかという懸念も指摘した。
米紙ニューヨーク・タイムズも社説「サウジアラビアの対テロ連合への疑念」を掲げ、連合設立の目的、実効性に疑問を投げ掛けた。
サルマン国防相は、標的はISに限らず、イスラム世界全体の「テロと戦う軍事作戦を調整、支援する」と主張、作戦センターはサウジの首都リヤドに設置されるという。
タイムズ紙はこれに対し、「スンニ派主導のサウジが、ワッハーブ派の宗教学校、イスラム法学者への資金提供をやめなければ、『イスラム国』との戦いの重要なパートナーとみることは難しい。ワッハーブ派の宗教学校や法学者は急進的な思想を拡大しており、それらが『イスラム国』の思想の核となっている」と指摘した。
一方で過激思想を拡散させ、一方でテロとの戦いを主導することなどあり得ないということだ。
「家の掃除を」と揶揄
またブルームバーグ通信は、連合創設は「見せ掛けの称賛と大きな疑念で迎えられた」と指摘、「サウジが世界のイスラム・テロと戦いたいと真剣に考えているなら、できることはたくさんある。まずは、自分の家をきれいにすることだ」と揶揄(やゆ)した。これは言うまでもなく、国内の人権問題、イスラム急進思想の拡散を指したものだ。
「アラブの春」の洗礼を受けていないサウジ。イラク、エジプト、リビア、チュニジアなど周辺の共和国はいずれも長期独裁政権を倒し、シリアでは独裁政権と反体制派による熾烈(しれつ)な内戦が続いている。その中で、湾岸の君主制国家は多少の動揺はあるものの、体制を維持している。
親米ということも大きな要因だろうが、民主化とは無縁のサウジが、反IS、反アサドという立場で、民主化に貢献する行動を取ろうとすること自体にうさんくささが感じられるのは致し方のないことだろう。
これまで西側メディアがサウジに対して抱いてきた不信感が、ここにきて一気に噴出した格好だ。
(本田隆文)





