ロシアのウクライナ侵攻、泥沼のアフガニスタン化への懸念示す英誌

ウクライナ情勢は泥沼に向かうのだろうか。(写真は泥沼のイメージ)

傀儡政権の樹立狙う
 ロシアのウクライナ侵攻が進む一方で、ウクライナのアフガニスタン化への懸念が出始めている。

 旧ソ連はカブールに傀儡(かいらい)政権を樹立、1979年にアフガニスタンに侵攻したが、10年後に撤退を余儀なくされた苦い経験がある。各地でゲリラ戦が展開され、隣国パキスタンがこれを支援、米国やサウジアラビアもこれに加わった。

 ソ連の継承国、ロシアのプーチン大統領がアフガンでの失敗を意識しているかどうかは不明だが、欧米メディアでは、ロシアによるウクライナ制圧後の泥沼の戦いへの懸念の声が上がる。

 英テレビITVニュースの政治デスク、ロバート・ペストン氏は英誌スペクテーターへ寄稿「ウクライナはプーチンのアフガンになるのか」で、「プーチン氏は戦闘には勝てても、それは戦争に勝つこととは違う」と指摘した。

 プーチン氏の狙いは最低でも、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)不加盟の確約だ。ウクライナを隣国ベラルーシのような衛星国化することも狙っているという指摘もある。しかし、それには、アフガンでしたような傀儡政権の樹立が、最も効果的だろう。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアが自身を含む政権幹部の殺害のための部隊をウクライナに送り込んでいるとの見方を示している。

 ペストン氏は、「プーチン氏に最大限の犠牲を払わせるとともに、ウクライナ市民に西側が強い味方だということを強くアピールすること」が重要だと主張している。

 その上で、英国の閣僚や補佐官らが「(ウクライナ侵攻は)プーチン氏の手には負えない」と考えていることを明らかにしている。「たとえ傀儡政権を短期間で樹立できても、長期間にわたる反政府活動に見舞われる。アフガンのトラウマの欧州版だ」ということだ。さらに、欧米を中心とした制裁が加わる。すでにロシア経済は低迷、経済制裁でロシア国民がいっそう窮するようになることは間違いない。

中国の覇権拡大懸念

 その一方でペストン氏は、制裁を受けたロシアを中国が支援するとみられていることに懸念を示す。「中国主導の自給自足経済で協力し合う国家群と、豊かでまとまりのない欧米の間の分断が加速している」という。

 すでに中露は安全保障での協力を深めており、両国の接近は、西側諸国にとって新たな懸念材料だ。ロシアは経済的に困窮しており、対露制裁の強化は、中露接近につながり、結果的に中国がロシアに恩を売る格好になるのではないかとの懸念も専門家の間で出ている。中露接近、中国の覇権拡大は日本にとっても他人事(ひとごと)ではない。

 一方で、アフガン化に否定的な見方もある。

 米紙フォーブスは、ウクライナ軍は小火器によるゲリラ戦訓練を受けていない、アフガンでもそうであったように多大な人的被害が出ることをその理由に挙げている。センサー、ドローンなどハイテクを用いたロシア軍の前に、ゲリラ戦が通用するかという懸念もあるようだ。

 だが、武力で圧倒的に劣勢にあり、欧米からの直接的な軍事支援が期待できない中、ウクライナにとって、侵攻するロシア軍に対抗する術はほかにない。

 キエフ国際社会学研究所の調査によると、ウクライナ人の3分の1が武装レジスタンスに参加する用意があると答えているという。

 ロシアが圧倒的有利とみられた戦闘は、ロシア軍の訓練不足、士気の低さもあり、ウクライナ軍の善戦が一部で伝えられている。長期化はロシアに不利に働く。

ウクライナ人は戦う

 本紙にコラムを寄稿している米紙ワシントン・タイムズのビル・ガーツ氏も、侵攻が始まった24日、ツイッターで「プーチン氏は、侵攻が成功すると思っているとしたら、計算違いをしている。ウクライナ人は戦う」とウクライナ支配のプーチン氏の狙いはかなわないとの見方を示した。

 泥沼のアフガン化で、誰も得をしないことは明らかだ。

(本田隆文)