「コロナ禍の民主主義」称し羊頭狗肉のファシズム批判するサンモニ
◆タイのデモなど注目
新型コロナウイルス感染第2波が懸念される中で、今年は夏休みを返上する“新しい日常”を過ごした人々も多い。お盆帰省の自粛、海水浴場や観光施設が閉まり、身近な場所でレジャーを楽しむ人々などの光景を各報道番組は追っていた。
夏休み自粛でも、わが国で不満が爆発するような動きはない。が、世界ではさまざまなデモが発生している。TBS「サンデーモーニング」(26日放送)は、「風をよむ」のコーナーに「コロナ禍の民主主義」というタイトルを付けてロシア、ベラルーシ、タイのデモを取り上げていた。
ロシアの野党指導者ナワリヌイ氏が毒を盛られて苦しむうめき声を機中で捉えていたスマホ映像、極東ハバロフスク地方のフルガル知事解任・逮捕を契機に起きた大規模な反プーチン大統領デモ、ベラルーシで26年間も政権の座にあり野党候補を排除しながら大統領選6選を果たしたルカシェンコ大統領に抗議する大規模デモ、タイでの軍政の流れを汲(く)むプラユット政権退陣や憲法改正を求めるデモ、外国の別荘で過ごす時間が多い国王に対して王制改革を求める若者たちのデモ…。
いずれも民主主義を建前としながら政権が独裁的であり、そこにデモが発生していることについて「新型コロナによって各国政府と国民の間に大きな変化が現れている」と注目したものだ。
◆自粛とネットが背景
高千穂大学教授の五野井郁夫氏によれば、「新型コロナウイルスというのは各国のリーダーの能力を測るリトマス試験紙」であり、「コロナ禍において人々はネットを見ざるを得ない。すると他国のリーダーと自国のリーダーを否応なしに比べる」ことが背景にあるという。
都市封鎖、非常事態宣言、さまざまな規制など新型コロナへの対応は各国ごとに差はあれど、行動を制限され、経済に打撃を受けるなど不満はたまる。人々が家に巣ごもり状態になればネット利用が増加し、デモが発生するとネット効果で予想以上の規模になるという現象だ。
しかし番組は、デモ発生と大規模化を解説したかったわけではない。イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏の言葉「民主主義が直面する最大の危機は民主主義より独裁の方が効率がよくなってしまうことだ。人々が複雑さを避け楽をして生きようとするとき、ファシズムが生まれる」を引用しながらの、ファシズムは民主主義から発生するとの警告だ。
ロシア、ベラルーシ、タイは選挙が行われる民主主義の建前を持つが、新型コロナ以前から政権が独裁的になっている。そこに意外な規模のデモが起きて民主主義の正常化へと働き掛けたい意図もあるかもしれない。ただ、ここで民主主義政治と独裁政治の「効率」を問うているのはコロナ対策においてであろうが、これらの国は民衆が不満をためてデモをしているぐらいで、効率よく成果を出しているわけではない。
◆中国の問題指摘せず
また、「効率」について新型コロナ対策を政治利用して国家体制の優位を盛んに宣伝しているのは、共産党一党独裁の中国だ。こちらのファシズムの方が、香港民主派を取り締まる国家安全法など、よほど深刻なはずだが、同コーナーは中国に全く言及も批判もしていない。ならば、ハラリ氏の言葉をもってして誰に警告しているのだろうか。
番組で五野井氏は、「民主主義で物事を進めていくのは国民の議論が必要で、議論をして理解をしていくには正確な情報開示が必要」とも語っており、出演者の一人は新型コロナ専門家会議の議事録がない問題をコメントした。
ロシア、ベラルーシ、タイのデモなど「政府と国民の間の変化」を引き合いに、結局、人々が夏休みを“自粛”しながらも楽しみ、政府に従い抗議デモが起きない日本に対して「ファシズム再来」と批判したいような羊頭狗肉(くにく)の番組だった。
(窪田伸雄)