「淋しさに飯を喰ふなり秋の風」(一茶)…
「淋しさに飯を喰ふなり秋の風」(一茶)。このところ気温が下がって昼は上着、寝る時は毛布を重ねてしのいでいる。だが突然、また暖かくなったりと天候が不安定。「体調を崩しやすいので健康に注意」とはテレビの気象予報士のアドバイス。
朝の肌寒さと昼間の暖かさの違いに体調管理が難しい。「女心と秋の空」ということわざがあるように、変わりやすい天候に振り回されているといったところ。
秋は「食欲の秋」「読書の秋」など、実りの豊かさを感じさせる。だが、木々の葉が色づいて枯れ葉となって散る季節でもある。人生でいえば、晩年や老境を象徴している。そこには寂しさも付きまとう。一茶が詠んだ句は、寂しさとともに飯を食うという俗的な言葉によって生きる活力も感じさせるものとなっている。
そこがいかにも一茶らしい。生活に根差したリアリティーがある。江戸時代に生きた一茶は、格差社会の中にあって生きて食うために俳句を作った。晩年は故郷に帰り、腹違いの弟と遺産争いをして土地と家を手に入れた。
一茶の人生はまさに食うための人生であり、俳句はそのための手段、あるいは人生の苦悩や喜びなどを吐露(とろ)する入れ物だった。寂しさを知っていた一茶は、同時に喜びやユーモアにも通じていた。
天候を英語ではウエザーという。この言葉からペンネームを付けたのが時代小説作家の宇江佐真理さん。1949年のきょうは、その宇江佐さんが生まれた日である。