台風19号の記録的大雨の影響で、長野県の…
台風19号の記録的大雨の影響で、長野県の千曲川や福島県の阿武隈川など47の河川で66カ所の堤防が決壊し、その被害は広範囲に及んでいる。行方不明者の捜索や孤立した地域の救難活動が急がれる。
被災者の多くは普段の生活を取り戻す見通しを立てられないままだが、破壊された堤防の修復や機能強化も大きな課題となっている。そのための調査には膨大な費用が掛かる。
江戸時代初期の優れた治水家としても知られる人物に熊沢蕃山がいる。蕃山は「水の勢ただ低きに付き潤下す。その勢いをはかりて導くこと、是れ水を治むるの法なり」(水をむやみに抑えつけ、閉じ込めることなく、その力を巧みに利用することを治水とする)と主張した。
また治水の目的を、農業用水の確保や舟運を安定化させることとし、川の水をいかに生活の場に引き込むかに腐心した。そのため、堤防にだけ頼る治水には、むしろ警告を発したという。
ところが明治以降は宅地造成や区画整理が盛んになり、政府は大洪水に対する防衛策として、堤防を築き川の水を人間の生活の場からほぼ完全に分離する方法を取った。戦後もその方式が営々と続いている。
しかし今回の災禍で明らかなように、地元の農業や産業が河川に依存するケースは少なくない。防災対策として、水の流れをいかに抑え込むかではなく、水の流れを軸とした町づくりを行い、河川を生活の場に引き入れる方策を講じるべきではないか。