長野県茅野市で毎年開かれている「小津安二郎…


 長野県茅野市で毎年開かれている「小津安二郎記念蓼科高原映画祭」を観(み)てきた。日本映画の巨匠・小津安二郎は晩年の約10年間、シナリオライターの野田高梧とともに蓼科の山荘「雲呼荘」に籠もり、『東京暮色』以降の晩年の作品のシナリオを作成した。それにちなんだ同映画祭は今年で22回を数える。

 「世界の小津」の遺産を後世に伝えて若い人たちの映画作りを応援し、さらに地域の活性化を目指す映画祭だ。今井敦茅野市長が組織委員長を務める。

 今年のメインイベントは、小津監督の『彼岸花』(昭和33年公開)の上映と同作に出演した山本富士子さんの講演。ほかにも短編映画コンクールや、話題の近作の上映など盛りだくさんのプログラムが用意された。コンクールでは若い人の姿が多く、小津映画上映では年配の観客が多かった。

 メイン会場の茅野市民館と新星劇場では、地元のボランティアによる豚汁やそば茶などが振る舞われた。案内や接客もボランティアが務め、おもてなしの心と手作りの味わいのある映画祭だ。

 シャトルバスに20分ほど乗って、小津が使用したゲストハウス「無藝荘」も見学できる。こういう爽やかな高原の気に包まれて『秋日和』『秋刀魚の味』などの名作が生まれたことを納得した。

 山荘の管理人によると、ある訪問者が「ここは小津映画の聖地ですね」と感想を漏らしたという。こういう財産をどれだけ生かせるか、茅野市の地方創生の鍵ではないか。