自然科学の世界では、遺伝子の性質が現れ…


 自然科学の世界では、遺伝子の性質が現れやすいものを「優性」、現れにくいものを「劣性」とこれまで呼んできた。日本学術会議は、高校生物の教育現場で「優性」を「顕性」、「劣性」を「潜性」と言い換えることを提言した。

 この言い換えはもともと、日本遺伝学会が17年の用語改訂で行ったものだ。「優性」「劣性」は優劣を意味するとの誤解を招き、別の呼び方が必要だと判断したためだ。

 学術会議の17年の提案では「優性」「劣性」を基本表記として、言い換えを併記していた。今回は「顕性」「潜性」が定着しつつあると判断し、主な用語とした。ただ、中学校では依然として「優性」「劣性」で教えているので、混乱を防ぐため、当面は「優性」「劣性」も別名として残すという。

 「優性」「劣性」はメンデルの法則が伝えられた100年ほど前から使われてきた。だが「顕」は「ハッキリしている」、「潜」は「隠れているので分かりにくい」という意味だから、遺伝子本来の性質の違いをよりよく示していると言えよう。

 「優性」は「優生」とも間違われやすい。「優生」という言葉からは、ナチスドイツの人種差別政策の元になった「優生思想」や、障害者への不妊手術が問題となった日本の「優生保護法」などが思い起こされる。

 言語も不易流行だろうから、時代によって言葉が変化するのは自然なことだ。遺伝子に関する新しい表記法が出てくるのも、時代の流れと言えそうだ。