国営の諫早湾干拓事業(長崎県)をめぐり…
国営の諫早湾干拓事業(長崎県)をめぐり、有明海の漁業環境が悪化しているとして漁業者が潮受け堤防の開門を求めていた訴訟は、最高裁の判決で「非開門」が決定した。
この事業については、漁業者と営農者が複数の訴訟合戦を行い、実にややこしいことになっている。今回の判決は漁業者にとって受け入れ難いものだろう。
戦後のコメ不足を背景に、1950年代に全国各地で干拓事業が実施されたが、70年代にはコメが余るようになっていた。日本は国土が狭く、平野が少ないという観念があって、至る所で干拓事業が行われた。
干拓事業は潮が引くと海底が現れる干潟が最も適していた。干潟は一見、泥や粘土質の海底で、大した生産性はないと思われがちだが、水質を浄化する機能を持ち、有明海のムツゴロウなど多様な生物のすみかであった。干潟をはじめ河川、河口、湾が見事な生態系を作り上げているという認識は極めて低かった。
諫早湾干拓の問題は、国が日本の国土と自然への古い認識を引きずっていることだ。司法も例外ではない。福岡高裁は、タイラギ漁やアサリ養殖での漁業被害と堤防締め切りとの因果関係を認めなかった。これも科学的な常識から遠い。
岐阜県では河口堰の建設で、清流・長良川の魚はめっきり減った。潮受け堤防が生態系を悪化させていることは明らか。泥沼訴訟の判決は判決として、国は生態系への新しい知見に則(のっと)った国土政策を示すべきだ。