横浜市の神奈川近代文学館で「江藤淳展」…


 横浜市の神奈川近代文学館で「江藤淳展」(7月15日まで)が開催されている。没後20年を記念した企画だ。文芸評論家の江藤は1999年7月21日、神奈川県鎌倉市の自宅で自殺した。享年66。

 見学しながら「批評家の展覧会は珍しい」と思った。小林秀雄(83年没)の展覧会は行われたのだろうか?とも考えた。そもそも、その批評家について論じられた単行本があるのは、北村透谷(1894年没)、小林、吉本隆明(2012年没)、江藤の4人ぐらいだ。

 文芸評論という地味な分野の中で、江藤の存在は際立っていた。慶応大英文科の学生時代に『夏目漱石』を刊行して世に出た。その後も、戦後の文芸評論の歴史の中で、亡くなるまで第一線にあり続けた。『漱石とその時代』(未完)が代表作。

 晩年は文壇の中で孤立したし、それも自殺の一因にはなったのだろうが、孤立自体が話題になった。左翼の人々の江藤を恐れる気持ちは本物だった。どのような状況にあっても「江藤淳」であり続けた。

 今年4月、平山周吉著『江藤淳は甦える』(新潮社)が刊行された。この批評家の青春時代を発掘することも含め、評伝の形で描いた大著だ。幾つもの新事実が記述されている。

 死去した当初は「目立った江藤さんでも、このままいずれ忘れられるだろう」とも思われた。しかし、そのようなことはなかった。文壇力学を超えたこの批評家の並外れた力量のたまものだったと改めて思う。