今や世界的なブランド牛として名高い和牛…


 今や世界的なブランド牛として名高い和牛。黒毛で赤身に脂肪が散らばる霜降りが最大の特徴というのが一般的なイメージだが、具体的には黒毛和種、褐毛和種、日本短角種、無角和種の4品種を指す。

 その種は日本の貴重な財産で、3月には和牛の受精卵と精液の中国への不正輸出事件も起きている。台湾の李登輝元総統が飼育繁殖に力を入れる「源興牛」は日本統治時代に導入された和牛を大切に育ててきたものだ。

 その和牛が明治に入って、日本の在来牛と国外の品種の牛とを交配して作られたことは意外と知られていない。明治以前は牛肉を食べたり牛乳を飲んだりする食習慣はなく、みな農耕や運搬などのための役牛だった。そんなDNAを持つ牛を元に世界的ブランド牛が生まれたのだから、世の中分からない。

 和牛の中でも名高いのが松阪牛(まつさかうし)。しかし、松阪牛という品種が存在するわけではない。その定義は、黒毛和種で子を産んでいない雌牛で、三重県・中勢地方を中心とした旧22市町村で肥育されたものとなっている。

 松阪牛が有名になったのは、大正から昭和にかけて多くの伊勢神宮への参拝客が牛肉料理の有名店を訪れ、その評判が広まったことが大きい。今でも参拝ツアーには、松阪牛を堪能するものが多い。

 和牛、そして松阪牛など、食材にはそれを育んだ歴史がある。うまければそれでいいという発想もあるが、歴史的な背景を知って食べれば、ありがたさも増すというもの。