新元号「令和」が、現存する日本最古の歌集…


 新元号「令和」が、現存する日本最古の歌集「万葉集」を典拠としたことで、万葉集ブームが起きつつある。初めて国書から採ったのは画期的な出来事だが、それで日本が国粋的なムードになることはないだろう。

 典拠となった巻五「梅花の歌三十二首并せて序」は、天平2(730)年、大宰府で大宰帥(長官)大伴旅人が山上憶良らを集め、梅の花を愛でながら和歌を詠じた際のものである。

 ご本人は認めていないが、「令和」の考案者ではないかと言われている国文学者の中西進氏に、この梅花の宴について考察した文章がある。『万葉と海彼』(平成2年、角川書店刊)に収録された「六朝詩と万葉集―梅花歌をめぐって―」で、簡単にいうと、旅人が梅花の宴を開いたのは、中国六朝時代の詩人たちを真似たのであるというものだ。

 そもそも、梅は大陸伝来の花で、それを愛でるのは中国の流行に倣ったものだった。大陸文化の影響も色濃い万葉集には、日本在来の桜を詠った歌43首に対し、梅を詠った歌は110首と3倍近くある。それが逆転するのは国風文化の所産である「古今和歌集」からだ。

 しかし、梅をはじめ大陸の文物を吸収し、自分のものとしたのが日本の文化である。そもそも元号という制度自体が中国伝来のものだ。

 本家の中国ではなくなった元号を、現代まで引き継ぎ国民の意識と生活に深く根差すものとして生かしていることが、日本文化のユニークさを証明している。