強い春風が収まると、ようやく暖かな春めいた…


 強い春風が収まると、ようやく暖かな春めいた日とともに桜の季節が巡ってきた。東京の標本木である靖国神社のソメイヨシノに開花宣言が出たのは春分の日だった。満開となる今週末あたりからこの花は、ピンクに染まったあでやかな風景で人々の心を浮き立たせるであろう。

 咲き誇る華麗な様に酔い楽しむ期間は長くなく、次は人々の心にはかなさと潔さを残して散っていく。桜前線はこうして列島を北上するが、春を感じさせるのは桜ばかりではない。

 気象庁の「生物季節観測」では桜のほかにも、身近な動植物の様子の記録から各地の春の進行をつかめる。ホーホケキョを初めて聞くウグイスの初鳴日(しょめいび)やタンポポの開花日、モンシロチョウの初見日(しょけんび)などだ。

 職員が実際に見聞する昔ながらのやり方の観測だから、より実感に近い季節便りと言える。今年のウグイスの初鳴日は和歌山、奈良、長野で昨日、タンポポの開花日は前橋が昨日、甲府が24日、モンシロチョウの初見日が山口・下関と静岡で24日だった。

 ただ近年は、観測対象の生き物が都市化の影響で姿を見せなくなった。都市化は人の住環境を快適にするが、引き換えに生き物の生育環境が狭まっていく。

 四季の変化に富む列島だが、人と生き物が触れ合う機会が減っていく中で、人の季節への感受性も育ちにくい時代となってきた。それでも春たけなわ、心弾ませる桜の風景だけは今も変わらないのはありがたい。