「うちでも猫を飼ってみるかな」「でも手が…
「うちでも猫を飼ってみるかな」「でも手がかかりますよ」「だから娘に面倒みさせるのさ。最近の人間の欠陥は自然をないがしろにしたところから来ているんだそうだ。たしかに文明がつくりだした害毒に蝕まれてるのは事実だよ」。
日影丈吉の小説『咬まれた手』の中で、不良高校生の娘の更生を願って、父親が友人に相談する場面。「娘に動物でも与えたら、また考え方も違って来そうな気がするんだが、どうかね」と続く。
ペット飼育の効用で、近年よく言われるのがセラピー効果。動物と触れ合うことで心が落ち着いたりストレスが軽減したりする。認知症患者のケアのため、アニマルセラピーを取り入れている高齢者施設もある。
このように書くと、動物は人間に一方的に甘えてくるのが習性のように見えるが、そうでもない。猫の場合、辺り構わず吐いたり、夜中に寝ている飼い主の布団の上に乗っかって、足を出していると鋭い爪で引っかいたりする。
人間が作り出した生活空間を攪乱し、否定する。「自然」が生活の中に入り込むということを理解していないと、飼育の放棄につながりかねない。
空前のペットブームの中、飼育対象となる動物の種類も多いが、逆に飼育放棄も増えている。野生化したノネコの場合、ウイルスや細菌などの病原体を持つダニが寄生することも少なくない。今国会で動物愛護法改正が審議されるが、ペットとの付き合い方について議論を進めるべきだ。