春、夏、冬休みになると、齢(よわい)70を…


 春、夏、冬休みになると、齢(よわい)70を過ぎた今も、旅に心が駆り立てられるのを抑えられない。芭蕉のごとし、とは言うものの、当時のように苦しみを伴う旅ではない。非才の身に一句が浮かんでくるわけでもない。

 それでも出掛けるのは、1日を目いっぱい列車に乗りまくって行くJRの「青春18きっぷ」の旅。行き当たりばったりで遭遇する非日常の見聞が貴重な体験となる。

 今月上旬。始発電車で同好の相棒と待ち合わせた吉祥寺駅から中央線で、松本を経て長野から飯山線で越後川口へ。ここで上越線に乗り換え高崎を経て帰京という欲張りな計画だった。それが人身事故で1時間余の遅れ。10時すぎに松本着の電車は大月で運行打ち切りとなった。

 ようやく11時前に小淵沢に着き、ここで乗り換えに計画変更。駅周辺を散策中に、溶接用の色眼鏡を空にかざしている老人に呼び止められ、部分日食を観測する幸運に恵まれた。

 八ヶ岳高原線が愛称の小諸行きの小海線はJR鉄道の最高地点1375㍍を走り、沿線9駅がJR駅の標高トップ10に入る。最高標高の野辺山駅(約1346㍍)は、3000㍍近い赤岳など八ヶ岳連峰を眺めるビューポイント。

 だが、寒さにたまらず駆け込んだ駅前の喫茶店の女主人は、きょうは零下10度ぐらいだと。標高1000㍍を超える山頂に立ったのと同じ非日常の世界に触れたひとコマである。帰路で乗り換えた高尾駅での外気が暖かく感じられたほどだ。