東京電力ホールディングスの広瀬直己副会長…
東京電力ホールディングスの広瀬直己副会長は2012~17年に社長として福島第1原発の事故処理などの陣頭指揮を執った人物。先日、米ニューヨークの日米交流団体ジャパン・ソサエティーで講演した。
この中で「安全対策に終わりはない。これで十分だと思わないことが事故から学んだ最大の教訓だ」と述べ、廃炉や除染作業に取り組む姿勢を強調したという。経営者として、企業への信頼を取り戻そうとアピールするのは当然だ。
しかし「安全対策に終わりはない」というのは、欧米の原発関連事業やメーカーでは既定の経営方針で自慢にもならない。福島の事故から7年半以上経た今、原発の今後の技術革新など攻めの事業方針も語ってほしかった。米国の聴衆も同様ではなかったか。
一般に米国でも「廃炉計画の策定は早いほどよい」とされている。だがそれは、次世代にできるだけ課題やツケを先送りせず、プラント技術者をその後に活用するためで、根底には技術者を重視する考え方がある。
また廃炉事業について、日本では“後始末”と受け取られがちだが、米国ではリニューアルと捉える傾向が強い。その作業は、ロボットなど世界最先端の技術の専門家を呼び込み、新しい技術を開発する前向きな仕事だ。
近年は「原発=悪」論が世の中を徘徊(はいかい)しており、原発事業の将来に暗い影を落としている。技術立国の日本で、原発技術の卓越性を信じられないのは不幸なことだ。