日露平和条約を「年末までにいかなる前提条件もなしで…


 日露平和条約を「年末までにいかなる前提条件もなしで締結しよう」。ウラジオストクで開かれた東方経済フォーラムで、ロシアのプーチン大統領が唐突に提案した。到底受け入れられない提案で、安倍晋三首相と日本国民を愚弄しているのではないかとの疑いすら起きる。

 ロシアの不法占拠が続く北方四島の返還は日本の悲願であり、「領土問題の解決なくして平和条約の締結はない」が一貫した立場だ。プーチン氏の提案は共同経済活動などで信頼醸成を図る安倍首相の「新しいアプローチ」も無視した形だ。

 安倍首相はプーチン氏と22回も首脳会談を重ね、「シンゾー」「ウラジミール」と呼び合う仲にはなった。その成果がこれなのか。

 「個人的な友情は、必ずしも国家間の友好につながらない」。――小欄で1度引用したニクソン元米大統領の言葉である。元大統領は、これが外交の「鉄則」であるとしている。

 さらに、スターリン、フルシチョフ、ブレジネフという3人のソ連指導者について、こう述べている。「三人のどれをとっても、計算ずくめの友情が外交上の譲歩に結び付くことはなかった」(『指導者とは』徳岡孝夫訳)。

 ナショナリズムの高揚を背景にウクライナ南部クリミア半島を力で併合したプーチン氏。よほどのことがない限り、北方領土返還を真剣に考えるとは思えない。返還のために日本はさらに別の道を考えるべきことを、図らずもその言葉は示しているのかもしれない。