「撫子(なでしこ)や堤ともなく草の原」…


 「撫子(なでしこ)や堤ともなく草の原」(高浜虚子)。日本女性の姿に例えられる花といえば、ナデシコが代表的。サッカー日本女子代表の愛称「なでしこジャパン」で有名になった。そのナデシコは秋の七草の一つ。

 といっても、春の七草に比べると知名度はいまひとつかもしれない。春の七草は、お粥(かゆ)に入れて食べる新春の行事で強く印象に刻まれるからだろう。秋の七草は観賞するのみのもの。

 ちなみに秋の七草は、ナデシコ、オミナエシ、ススキ、キキョウ、フジバカマ、クズ、ハギ。昔の人々は、花の一つ一つをその季節特有のものとして愛(め)でていたのだろう。

 秋の七草は、万葉集の歌人・山上憶良の歌から生まれたと言われている。一首に七つの花の名を入れて詠んだもので、その中の一つが「朝顔の花」となっている。これについては、以前から今のアサガオではなく、ムクゲやキキョウ、ヒルガオなどの説があった。現在ではキキョウが有力になっている。

 昔の人々は花を見慣れていたので名前を間違えることはなかったろう。だが現代人は、秋の七草のイメージがすぐに浮かぶだろうか。かつては野原に咲いていた花も、開発によって姿を見ることはあまりないのではないか。

 ナデシコも気流子などは、はてどんな花だったかと検索して写真を見て、ようやく納得した次第。これからは、もっと野の花に注意を向けなければと思う。「雑草という名前の草はない」という昭和天皇のお言葉が思い出される。