今年は世界的な歴史学者、朝河貫一(1873~…
今年は世界的な歴史学者、朝河貫一(1873~1948)の没後70年で、それを記念するシンポジウム「朝河貫一―人文学の形成とその遺産―」が母校の早稲田大学大隈講堂で開催された。
その業績は三つの分野にわたっていた。第一は歴史学者として日本を世界史の中に位置付け、日欧の比較封建制研究の分野を開拓したこと。第二は図書館司書の分野で、米国で東アジア関係図書を収集し、日本研究の基礎を築いたこと。
第三は世界の中で日本の取るべき針路を提示した、平和の提唱者としての業績だ。早大教授の甚野尚志さんは朝河を「東西の人文学の知識を深く理解した知の巨人」と形容し、「人文学の再構築のために大きなヒントを得たい」と開催の趣旨を述べた。
十数人の研究者たちから研究の先端を聞くことができたが、もっと国民に知られてもよいのではないかと思われたのは、朝河貫一研究会理事の山内晴子さんが報告した、朝河の皇室制度についての研究だ。
異文化を受け入れた大化の改新でも、明治維新でも、成功のカギは皇室制度にあったと朝河は説いた。同様に極東政策で、皇室制度と民主主義の融合が可能だったのは朝河学説が根拠になっていたからだという。
朝河が日本であまり知られてこなかったのは、米国で仕事をし、多くの著作が英文だったという理由もあるだろう。が、日本史研究の上でも米国の知識人への影響の上でも今なお重要な人物だ。