日本で18件目となる世界文化遺産登録が…


 日本で18件目となる世界文化遺産登録が決まった「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」。キリシタン時代や潜伏キリシタンについては、作家の故遠藤周作氏が深い関心を示し、『沈黙』『銃と十字架』などの作品を残した。それらは、自身カトリック教徒である遠藤氏の信仰告白でもあった。

 昭和46年出版の『切支丹の里』は、遠藤氏が長崎、平戸、天草などキリシタンの里を訪ねた紀行。今から50年近く前の里の様子を伝え、貴重な記録にもなっている。

 その中で遠藤氏は「切支丹の信仰を守りつづけたのはそれが自分の祖父、父母が信じた宗教だったという愛着があったため」としている。

 「かつてフランシスコ・ザヴィエルは、日本人たちは自分が切支丹に入れば祖先を見棄てることになると言って嘆きかなしみ、その祖先愛着が入信の妨げとなることを嘆じたことがあったが、今度はその祖先愛着が逆にかくれ切支丹の信仰を持続させた」というのだ。

 潜伏キリシタン関連遺産は「禁教下にもかかわらず、密(ひそ)かに信仰を継続した独自の文化伝統の証拠」と評価された。日本的あるいは東洋的と言ってもいい先祖愛着に注目した遠藤氏の指摘は、その核心に触れるものだった。

 仏教には「一人(いちにん)出家すれば九族天に生まる」との教えがある。平安時代、貴族の子弟が出家し一族を代表して仏道に励んだのも、そんな背景があった。世界宗教と日本的精神風土の問題も遠藤文学の重要テーマだった。