学生時代、過失傷害事件の目撃者になった…


 学生時代、過失傷害事件の目撃者になったことがある。被害者は外国人だった。数日後、アルバイト先に刑事がやって来て、警察署で調書を作ることになった。

 生まれて初めての取調室で、刑事にいろいろ聞かれるまま、ウソを交えずに証言した。終わると、書き取った調書を相手が早口で読み上げた。冒頭近く「何時何分ごろ、××を歩いていたところ……」となっていた。

 当時「……のところ」という言い方はしていなかったので「そういう言い方はしてませんよ」と言うと「時間と場所が正確なら、それでいいんですよ」との回答。「そういうものか」とひとまず納得して聴取は終了した。

 最近話題の「改竄(かいざん)」という用語に関して、何十年も前の体験を思い出した。あの調書は「改竄」されたのか。それとも、事実関係に誤りがなければ、単なる「編集」なのか。

 発言の全ては、テープレコーダーのように忠実に再現されなければならないのか。人間は普通、「うーん、どうだったかな?」などと呟(つぶや)きながら話すものだが、発言の通り厳密に記録されなければ改竄に当たるのか。

 その種の議論がないまま「改竄=悪」と断定されることになると、報道や著作は全て改竄になってしまう。編集と改竄の境界はどこにあるのか。ちなみに、この事件についてはその後、起訴か不起訴か、起訴だとして判決はどうだったのか、被害者はその後どうなったのか、何の連絡もなかった。