美術家の岡本太郎が1930年代にパリで学んだ…


 美術家の岡本太郎が1930年代にパリで学んだのは民族学だった。それはものから社会の構造をつかみ取ろうとする学問で、パリ万博の跡地にできた民族学博物館で資料に心ときめかせた。

 この体験がきっかけとなって、太郎は51年、東京国立博物館で縄文土器と出会う。超自然的で、呪術的で、緊張感のある縄文土器に衝撃を受けた。それまでは誰も美しいとは思っていなかったのだ。

 野蛮な先住民が作ったものだと認識されていたにすぎない。だが研究が進み、今では衣食住はじめ世界観まで明らかにされつつある。衣が復元されれば編みや織りの技術と美意識に驚かされる。

 こうした人間の見直しはグローバル化の現象と並行していた。アメリカ歴史学会会長を務めた入江昭さんの『歴史家が見る現代世界』(講談社)によれば、それは地球を一つの単位として、その全体の繁栄を目的とする現象だ。

 国家間には権力政治的な関係と国境を越えた文化的関係とがあり、後者は世界の国々や人々を結び付ける作用を果たす。そのつながりの中でこれまでになく現実性を帯びてきたのが「人間とは何か」という問いだという。

 国家や人種や宗教を超えて、人間という存在は同じだとの信念が意識されるのは第2次大戦以後。入江さんが国境を越えた人と人とのつながりこそ歴史の「根本的な現象」と理解するのは80年代だが、人間の「再発見」は先史時代についても同時期になされていたのだ。