「八重桜山峡深く散らしめず」(橋川かず子)…


 「八重桜山峡深く散らしめず」(橋川かず子)。公園を歩いていると、すっかり散ったソメイヨシノの後に八重桜が満開になっていた。花見の時期が終わったのに、まだ花見をしているような不思議な気分になった。

 清楚(せいそ)な白さが際立つ山桜や薄紅色のソメイヨシノに対して、八重桜はピンクがかった紅色が映え、あたりを明るい光で覆うようだった。だが、その八重桜も先日の台風のような強風で散り始めた。驚いたのは、住んでいるマンションの踊り場に花びらが散らばっていたことだった。

 最初は折り紙をちぎったのかと思った。公園沿いの溝でも、花びらが風に寄せられて1本の線になっていた。塀際に咲き始めたタンポポの花と相まって、華やかな春を演出しているようだった。

 タンポポは黄色い花と種を飛ばす灰色の絮(わた)毛で、春の野草の中でもひときわ印象深い。とはいっても、現在見られるタンポポの多くは外来種のセイヨウタンポポらしい。在来種は片隅に追いやられているようだ。

 在来種が外来種の生命力に脅かされるのは、動植物の世界では当たり前のようになっている。それを防ぐ試みも行われているが、すべてを駆逐することは難しい。

 人間の世界でも国際化に伴い、国を超えた交流は盛んになる。しかし、そこには国境というクッションが存在する。自然界では、人が調整しないと固有種や在来種の絶滅という事態に陥ってしまう。そのあたりが難しいところである。