「初蝶(はつてふ)来(く)何色と問ふ黄と…
「初蝶(はつてふ)来(く)何色と問ふ黄と答ふ」(高浜虚子)。近くの林の中の散歩道で「おや、こんな所で」と驚きつつ、その優雅な胡蝶(こちょう)の舞にしばらく見とれていた。モンシロチョウやキチョウはよく見掛けても、アゲハ類を見ることは少ない。
それがクロアゲハチョウである。黒い羽が時々、光の加減で高貴な感じの紫色にも見え、ひらひらと舞い通り過ぎていくのを唖然(あぜん)として見送った。
以来、この時期になるとここでクロアゲハに出逢(あ)うのが楽しみになる。昨年も一昨年も眺めたのは月後半であったが、今年は3月初日に春一番が吹くと、初春をパスして一気に仲春から晩春の日和に。サクラはもう散り始めた。
出逢えるのは早まるかもと期待が膨らむ。チョウの愛好家には、見事なコレクションを残した故鳩山邦夫氏(元法相・総務相)や能楽師狂言方の山本東次郎氏がいる。山本氏はアゲハの中でも「春の女神」ギフチョウにぞっこんなようで「今年もまた逢えたという喜びは年ごとに深まり、今はただ、胡蝶(こちょう)の舞を幸せな気持ちで眺めている」(日経「あすへの話題」平成27年4月4日付夕刊)と綴(つづ)るほど。
クロアゲハに戻ると、後に知識を得たのだが、山椒(サンショウ)の葉に卵を産み、幼虫はその葉を食べて成長する。チョウになると同じ道筋を飛んでいくのだという。
確かに林には山椒の木がある。分かってしまうと神秘性やロマンも薄らぐが、それでも「今年も出逢えるかな」というわくわく感は消えない。