昨年3月、雪崩事故で死亡した栃木県立大田原…
昨年3月、雪崩事故で死亡した栃木県立大田原高校の生徒ら8人を追悼する式典が、同県那須町の「なす高原自然の家」で開かれた。登山講習会さなかの事故で、再発防止の取り組みが進められてきた。
富山県にある国立登山研修所では、高校山岳部の顧問を対象とした指導者研修会を新設。研修所を運営する日本スポーツ振興センター(東京都)も、彼らを対象とする講習を7県で実施してきた。
かつて気流子が大学山岳部に入って間もなく、日本山岳会学生部の集会に出席した時、某大学の4年生が話し掛けてきた。3月の合宿でテント2張りが雪崩でつぶされ、生き残ったのが2人だけだったと。
そしてしみじみ語るのだ。「苦労は自ら買って出るものです」。老人のような言葉だったが、その姿勢こそ彼が生き残った秘訣(ひけつ)とも感じられた。登山に必要なのは技術の習得や知識だけではない。
同じ学生時代、国立登山研修所で今西錦司の講演を聞いたことがある。晩年まで里山歩きを続けていたが、「登山の最大の悦(よろこ)びは風景を眺めることにあります」と言って、自らを「風景派」と称した。
眺めるとは深く味わうことであり、山の息遣いを感じ取ることである。自然が私になり私が自然になる。そうした感性を養うことができれば、雪崩の前兆を察知することも可能になるだろう。それを育んでくれるものの一つが、山の名著を読むことだ。そこには自然を知る多くの知恵が隠されている。