理化学研究所の今井猛チームが匂いの安定した…


 理化学研究所の今井猛チームが匂いの安定した識別について、匂いを嗅ぐ意思、意図(動物ならば本能)を持った主体的な行為(働き掛け)が決定的に影響することを突き止めたことを取り上げた昨日の小欄。

 「機械にはない人間や生物の卓越した能力の根拠が今回、科学によって示された素晴らしい発見だ」と高く評価した。そこで思い出したのは、10年以上前の話になるが、知り合いの老夫婦が入居した都心部の超高層高級マンション、いわゆる“億ション”での出来事である。

 しばらくして夫人の体に湿疹が出て、何かのアレルギー反応と診断された。夫人は居住する高層階だけに異臭がすると主張するが、主人も他の部屋の住人も特に異臭を感じない。

 苦情を受けた管理会社が臭気の分析機器を使って調べたが、異常は掴(つか)めなかった。それでも夫人の湿疹は悪化する一方。そこで登場したのが臭気判定士だった。

 こういう国家資格があることを初めて知ったが、人間の臭覚による測定は、ごくごくわずかな異臭を突き止めた。しかも発生源についても廊下の床下の可能性を指摘したのである。

 管理会社が床を剥がして調べたところ、床の貼り付けで施工不良が分かった。接着剤で密接されるべき箇所に隙間があり、ここに有毒カビが発生していた。この話を聞いた時は“億ション”でもこんなことが、と驚いたが、機器が捕捉できなかった臭気を人が捉えたことに注目すべきであった。