アルプス山脈の麓にあるフランス東部シャンベリ…


 アルプス山脈の麓にあるフランス東部シャンベリの駅で、30歳の女性がホームと列車の間に転落し両腕を切断したが、どちらの腕も接合手術に成功したという。

 駆け付けた救急隊が切断された両腕を氷で冷やし、滅菌状態にして病院へ運んだ。その素早い対応が称賛されている。この女性の気丈さも特筆もので、男性でも、腕1本いや指1本でも切断し転がったそれを見ると卒倒し、その後の医療措置もままならないという事例を聞く。

 シャンベリ近郊のグルノーブルにある病院で10人の医師団が組織され手術が行われたが、血管や神経1本1本の縫合は気の遠くなるような大変な作業だったろう。時間との勝負でもあり、チームプレーの手際良さが光る。

 人間の体の部位は、イモリの切られたしっぽのように再生はしない。しかし事故による両腕切断と接合の顛末(てんまつ)からは、こうした再生能力の欠如をカバーして余りある人間の知恵を感じさせる。

 人間の場合、手や足を切断しなければ生命に関わる時、速やかにその処置をし、義手、義足に頼るすべも心得ている。こちらの進歩も著しい。

 今回は欧州の例だが、接合医療は日本の得意分野の一つで、皮膚移植や再生医療などを含め、海外と比べ一日の長がある。明治25(1892)年、火傷(やけど)で癒着した左手こぶしの手術を受けたのは清作少年こと野口英世。手掛けたのは地方の一医師で、既に移植医療はここまで進歩していた。